お兄ちゃん、好きでした。【太宰治】 (ページ18)

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# 兄と妹１６ページ18

『…』

あれから、ポートマフィアのビルを抜けて

やみくもに走って。

港まで来てしまった。

煌びやかな街並みを

真っ暗な水面に鮮やかに映して、

街と相反するようにしんとしていた。

『……どうしようか』

すとんと港の柵に座り込んで、呟く。

中也さんにバレてしまった。

『…姐様にもバレちゃうかなあ』

そうなったらどうしよう。

確かに、お兄ちゃんに

妹として見てもらえないのは辛いけど、。。

でも、私の兄なのには変わりないし。

どうしても、昔の優しい兄がちらつく。

『…おにいちゃん』

私の面倒を見てくれたのは、兄。

私を守ってきてくれたのも、兄。

私の居場所を作ってくれたのも、兄。

ぜんぶぜんぶお兄ちゃんなのに。

何でこんな事になっちゃったんだろう。

何処で間違えた？

何がダメだった？

自問自答しても、答えは出ない。

ずっと。

『…』

自分でも何を思ったか、

座っていた柵から飛び降りて、

足先をそっと海につけた。

『ｯ、つめた………』

春先といえど、まだ夜の海は冷たい。

でも、ざぶざぶと足を進めて行く内に

体も冷たさに慣れてきた。

これは、いけるかもしれない。

ざぶ、ざぶ、と確実に一歩一歩、進んでゆく。

時折体を叩きつけるような波が当たる。

そんなのも気にせず、進む。

そもそも、私が駄目だったのだ。

私が出来損ないだから駄目なのだ。

自分は出来るのに、妹は全くだめ。

そんなだから、兄も嫌気がさしたんだ。

自分の名前に傷をつけるような妹なんて。

そうだ。

私が、ぜんぶ、だめだったんだ。

腰あたりまで浸かったところで

波に足を取られた。

そのままよろけて全身が水に浸かる。

不思議と、怖くない。

このまま、波に身を任せれば、そのうち。

そんなことを冷静に考えながら、

ぎゅ、と目をつむった。

ごめんね、お兄ちゃん。

今まで、ごめんなさい。

すきでした。

？｢Aっ！！！！！｣

⬆助けに来たのは誰でしょう(唐突なるクイズ)