way -光の射す方へ- Part2 (ページ38)

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始まった撮影ページ38

23時少し前。

予定より少しだけ早く終わった撮影。

剣史は椅子から立ち上がって身体を伸ばす。

剣史『さ、帰ろうぜ。A、うち来るか？』

『パス。』

剣史『なんで？』

『私にそんな野暮な事しろっての？』

剣史『お前そんな気使えたのか？』

『ちょっと……。』

ムッとした顔で睨んだ。

煉『相変わらず凄い演技をしますね。』

『そう？』

煉『久しぶりに見ましたが、ゾッとさえしましたよ。』

『あなたもあの頃より成長してるわよ。』

煉『それは光栄ですね。』

昔話なんて柄じゃない。

それでも話し出せば胸が少しだけ熱くなる気がした。

梓『過去の栄光にしがみついてるだけじゃない。』

ボソッと言いながら鞄を肩から下げる。

剣史『おい。梓。』

梓『剣史も煉も、その女にゴマすったって無駄よ。』

剣史『いい加減にっ…。』

怒りだそうとする剣史をAの手が止める。

冷たい視線を落とす梓。

梓『引きずりおろされたまま、悔しがって沈んでいきなさい。』

身をかがめてグッと顔を寄せて来た。

まるでさっきの芝居のように。

梓『主演女優は私。今日本で一番売れてるのは私なの。忘れないで。』

勝ち誇ったような顔で満足気な背中を見せて扉へ向かう梓。

『あぁ。言い忘れてたわ。』

Aはその背中に顔も向けずに声を投げた。

梓は攻撃的な顔で振り返る。

『返してもらうから。』

梓『は…？』

『期限付きの主演女優を楽しみなさい。』

顔をしかめる梓。

梓『渡さないわ。あんたみたいな過去の産物になんか…。』

『そう。』

梓『主演女優を獲り返せなくて悔しがるみじめな姿をカメラにおさめてあげる。』

『楽しみだわ。』

梓『あんたなんかに私が負けるもんかっ！！』

ドスドスと音を立ててスタジオの扉をバンッ！と閉めた。

剣史『全く……うるせぇ女だなぁ……。』

煉『まぁ……いつもの事だけどね……。』

静かに立ち上がるAは鞄を掴んだ。

『じゃ。帰るから。お疲れ様。』

コツコツとヒールの音を立てる。

煉『送りましょうか？』

『結構よ。』

背中を向けたまま手を振るAはスタジオを出て行った。

煉『随分落ち着いたね…Aさん…。』

剣史『でも……梓があの勢いで絡み続けると…ちょっとな…。』

煉『ちょっと？』

剣史『いや。なんでもねぇよ。お疲れ。』

それぞれが色んな思いを抱えて始まった撮影は、見た目順調に進んだ。