way -光の射す方へ- Part2 (ページ1)

今日:16 hit、昨日:0 hit、合計:66,430 hit

一人になりたくてページ1

夜10時過ぎ。

二人一緒のカットとは言え、絡みつくようなカットは無かった。

その日の収録となんとか無事終えたA。

鞄を掴むと疲れた顔で誰にも声をかけずスタジオを出て行く。

壁際に立っていた凛は後から付いて来る。

正門に向かって真っ直ぐ歩くAを引きとめる声。

凛『Aさん、車こっちですよ。』

『今日はいいわ……。』

凛『え、でも。』

『歩いて帰りたいの……。』

凛『少し距離ありますよ…？明日も早いんですし…。』

目を伏せて少しだけ緩めた口元。

『凛……一人になりたいの……。お疲れ様……。』

コツコツと響かせるヒールの音が重たく聞こえる。

Aは覇気のない背中を凛に見せながら正門を出て行った。

慌てた様子でスタジオから出て来たドンへ。

凛の姿を見つける。

DH「凛さん！」

駆け寄って来た。

DH「Aは？」

凛「帰りました…。」

DH「え……一人で…？」

凛「はい……一人になりたいと……。」

思わず歪む顔。

A…

もう少しだから…

もう少しで終わるから…

そしたら…

お前が納得するまで抱きしめるから…

ドンヘはもう姿の見えないAの背中に頭の中で投げかけていた。

顔を隠す事もせず、Aはトボトボとソウルの街を歩く。

まだ人通りの多いメイン通り。

Aの姿を認識する人が面白いほど振り返る波を作っていた。

鞄の中で鳴り出す携帯。

出る気分になれなくて放置してても、かけ直された。

「はい……。」

雪『何よ…その声は…。』

『雪…。』

雪『撮影順調？』

『そうね…。』

何かあったのだと丸分かりの声。

『久しぶりの日本はどう…？』

雪『そうね。たまにはいいわ。』

明るい声に自然と微笑みが浮かんだ。

『姉さん……。』

雪『何？』

『剣史………いる……？』

雪『え、いるわよ。待って。』

電話の向こうで何か話している声が聞こえる。

剣史『なんだ？』

愛想のひとつもない応答。

Aは歩道のど真ん中で足を止めた。

剣史『A？おい、聞こえてんのか？』

震わせないようにと思うのに勝手に震えてしまう唇。

『剣……史……。』

流れてくる声にハッとする。

剣史『……どした…。』

『私……。』

私の…大切な人…

私だけの…大切なもの…

全部…

全部…

芝居になっちゃったよ…

消えてしまいそうなAの泣いている声に剣史は深いため息をついた。