約束 -赤い糸- (ページ45)

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上の空ページ45

A「…ドンヘ…？」

耳に当てている携帯をギュッと握りしめる。

DH「A…。」

会いたい…

声が震えないよう精一杯装って絞り出した言葉。

心臓が握りつぶされそうな痛みをAは覚えた。

A「…何かあったの…？」

DH「何も…ただ…」

会いたいんだ…

泣いているような声。

Aは痛む胸を抑える。

A「今…外なの…。それが終わったら…行くわ…。どこにいるの…？」

DH「…あの家に…帰りたくないんだ…。」

A「…終わったら…連絡するから…。」

プツッと切れた電話。

あんな声のドンヘは初めだった。

LT「どうかしたの？」

話を終えたイトゥクがAの背中から声をかけた。

ハッとして振り返る。

A「ううん。何でもない。お話終わったの？」

LT「ああ。後は本番で着るだけ。」

A「そう。」

Aは笑顔を作る。

何事も無かったような顔で鞄に携帯を押し込んで肩に下げると、式場の女性にお礼を言ってその場所を離れた。

二人は電車でソウル市内へ戻ってくる。

LT「しかし暑いな…。」

滲む汗をグイッと拭った。

A「ホント…。暑いのは苦手…。」

LT「ビールでも飲むか？」

A「賛成！」

二人は方向転換すると店に向かって歩き出す。

イトゥクはたくさん見せて貰ったAのドレス姿をベタ褒めして笑う。

照れた顔で笑っているA。

それでも頭の中には、悲しそうなドンヘの声が残っていた。

涼しい店の中で飲むビール。

幸せを感じられた時間の後の幸せな時間のはずだった。

お酒を飲んでいても、冗談を言っていても、笑顔を交わしていても、どこかうわの空のA。

イトゥクはそんなAに気が付いていた。

それでも…

そこには触れてはいけない気がして、一人でひたすらしゃべり続けた。

店を出た二人。

Aは何度も落ち着きなく携帯を見る。

LT「A。もう少しいい？」

イトゥクはあえて言葉に出して聞いた。

A「え。ああ…もちろん。」

Aは笑顔で答える。

携帯を出したりしまったりしている落ち着きのないAの手を握ると、ソウルの街を歩きだした。