訃報 ページ34
壁際に3つ並んだパイプ椅子のひとつ。
完全に力が抜けた放心状態のA。
ドンヘとイトゥクは静かに足を踏み入れる。
DH「おばさん…？」
医者は頭を下げて数歩後ずさった。
機材を片づける看護師。
説明など必要なかった。
LT「…A…。」
イトゥクはAに小さな声をかける。
DH「A…。大丈夫か…？」
ドンヘがイトゥクのすぐ後ろからもう一度声をかける。
何度か瞬きをして、ゆっくり真っ青な顔を上げた。
ドンヘとイトゥクを視界に入れると、すぐに溢れだす涙。
泣き出してしまうAは何の迷いもなくドンへに抱きついた。
DH「A…何で言わなかったんだよ…。お前はいつもそうだ…。」
A「…ドンヘ…。」
声をあげて泣きじゃくる。
ドンへは顔を歪めたまましがみつくようなAを抱きしめていた。
こんな時なのに…
そう思うのにドンへに抱きつかれた事がショックだったイトゥク。
抱きしめてあげなきゃと思っていた腕の行き場がなくて、ジャケットのポケットに無理矢理押し込んだ。
そんなに騒ぐなよ…
仕方ないだろ…
Aにとってドンヘは…
分かっていた事だ…
だから…
そんなに痛むなって…
自分の心に話しかけるように、頭で何度もそう繰り返した。
2日後。
近所の人たちの手助けもあって母の葬儀は無事済んだ。
Aは終始気丈に笑顔を見せていた。
深夜12時過ぎ。
すっかり人気の引いたAの自宅。
真っ黒のスーツ姿が揃ってワゴンから下りてくる。
カギのかかっていない玄関を開けるドンヘ。
小さな音ひとつですら響いてしまう程、静まり返る家の中に上がりこむ。
キッチンにはドンヘの母と、数人のご近所さん。
頭を下げて静かに挨拶をする。
DH「母さん…Aは？」
みんなが手を合わせようとゾロゾロと和室に入って行く。
ドンヘが姿の見えないAの居場所を聞くと、2階だと教えてくれた。
キシキシと少しだけきしむ階段を上がって、Aの部屋の前に立つ。
閉まりきっていない扉の向こう。
Aは床にペタンと座り込んでボーッとただ前を見つめていた。
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作者名：ゆちょみん
| 作者ホームページ：http://ameblo.jp/yuchuming/
作成日時：2017年1月5日 15時
