夢と現実の狭間で生きる (ページ7)

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伊野ちゃんと手を繋いでしばらく歩く。

それだけで懐かしくて、泣きそうになるのを堪える。

さっきまで見かけた扉どころか、何もない場所まで行ったところで、歩みが止まる。

「ちょっと待っててね」

伊野ちゃんが手をかざすと、突然ベンチが現れた。
公園でよく見るベンチに対して、地面が雲なのは変わらないから、違和感がスゴすぎるけど。

「ごめんね。その様子だと無理やり連れてこられでしょ」
「そうだけど……。伊野ちゃんに会えたし、むしろ感謝したいぐらいだよ」
「そっか……」

話をしたい。
でも、話したいことが多すぎて、口を開くと止まらなくなりそうだ。

そんな俺を見て微笑みながら、代わりに伊野ちゃんが口を開く。

「獏って知ってる？普通の動物じゃない方の」
「悪夢を食べる空想の生物だよね？伊野ちゃんが教えてくれたヤツ」
「俺、獏なんだよね」
「……はい？」

つい聞き返してしまった。
獏ってなんか色んな動物の部位が混ざった生き物でしょ？

伊野ちゃん、人間だろ？

「まぁ、ちょっと違うんだけどね。派生というか、獏の力を持った突然変異の一族って感じ？」
「なんで伊野ちゃんが疑問形なんだよ」
「説明難しいからこれで納得してよ。それで、俺たちの一族はごはんとは別に悪夢を食べなきゃいけないんだけど、しばらく食べ忘れちゃって」
「なにやってるのさ……」
「その結果、現実世界で存在を保てなくなりました〜」
「本当になにやってるのさ!?」

原因が食事のし忘れ!?
食べるの大好きなくせに！

「寂しかったんだよ……。誰も覚えてなくて、辛いし、嫌な夢ばっかり見ちゃうし」
「本当にごめん。それで今は、現実世界でまた活動できるように、悪夢を食べて回復してるところって感じだね」
「戻れるの？」
「時間はかかるけど」
「そっか」

ちゃんと伊野ちゃんはここにいた。
それだけで、今は充分。

消えた理由がテキトーすぎて、ちょっとイラッとしちゃったけど。

「だから、もう少しだけ待っててほしい」
「また会える？夢でもなんでもいいから」
「夢の中でいいなら」
「それなら、大丈夫……たぶん」
「たぶんってなんだよ」
「伊野ちゃんのテキトーが移っちゃった」
「俺そこまでテキトーじゃないよ」

俺たちはそれから、前みたいにくだらない話を始めた。

この夢が俺が作った幻ではないことを祈りながら。