綻び ページ8
shg side
福良さんからの電話を対応し終え席に戻ると、待っていたのは少し顔を赤らめた茂根さん。この数分で何があったんだろう。
それからというもの、茂根さんはいつも通り会話してくれるにはしてくれるのだが、どうにも様子がおかしい。
ずっとチラチラとメモ用紙へと目線を向けている。磨きあげられたダークブラウンの天板の上に乗ったそれは、確かに私が書いた短歌のメモだった。しまった、しまい忘れたのか。
あの様子だと中身を見たのだろう。気まずい空気を纏わせながら、彼女オススメのブラウニーにフォークを刺す。
重厚なチョコレートに軽めの生クリーム。どちらも甘さが控えめで、このカフェに似合った味がした。
「あのね、志賀くん。申し訳ないんだけど……さっき志賀くんが居ない時にね、見ちゃったの。そのぉ、中身。」
丁度私が咀嚼し終えたタイミングで彼女はポツリと話し出した。中身というのはメモ用紙の内容だろう。
『やっぱりです?なんか様子おかしいなとは思ってたんです』
笑いながらそう言うことしか出来なかった。
「それでね、違ったら本当に恥ずかしいんだけど。
その、自惚れても いいんですかね。」
たっぷりの間を置いてから、かすかに聞こえる声量で彼女はそう言った。
今まで私自身気付かないフリをしてきた。いや、本当に気づかなかったけど、彼女の林檎のような真っ赤な顔を見ていたらかける言葉はすぐに決まった。
『はい、存分に自惚れちゃってください。』
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作者名:杉山 | 作成日時:2023年8月17日 1時