水やり ページ4
your side
入試の倍率がとてつもなく高い藝大では、現役合格者は3割程しかいない。そのため歳下なのに先輩、というなかなかに気まずいシチュエーションがざらにあるし逆もまた然りだ。もう藝大生になる以上気にしたら負けだと思っている
なのに志賀くんは自分が私の先輩であることを初めて知ったときは接し方について凄く考えあぐねていた。繊細で、優しい人なのかなというのがセカンドインパクト。
でもメイクをしてみたいとかポロライドが好きとか、お互い話が合いそうだったから、どちらともなしに連絡先を交換して交流を続けた。
飲み会から数日後、ほぼ毎日のように彼と連絡を取り合っていたけど、2人とも(主に私だけど)そろそろ製作の締切が近くなってきた。
今私が描いているのはF100号の縦構図、高さは大体1.6mくらいかな。それをイーゼルの上に置いて描くから上の方は脚立を使わないと手が届かない。そんなとこで文字を打ちながら会話を続けるのは危ないということで、最近はツナギの胸ポケットにスマホを入れて電話で話している。
そのくらい話してたら志賀くんも慣れてきたみたいで、たまに敬語も外れるようになった。
志賀くん自身はその事に対してあとから申し訳なさそうに訂正するんだけど、私からしてみればもっとフレンドリーにタメ口で喋って貰いたい。
今日は休日。家にいるのも嫌だけど絵を描くのも気分的に違う気がしたから近所のショッピングモールに来た。
何か素敵なものはあるかしら、とブラブラ歩いていると、とあるお店のシナモロールのぬいぐるみと目が合った。
……そういえば、志賀くんシナモン好きって言ってたなぁ。あんまりよく見た事なかったけど、こんなに可愛かったんだ。
気が付いたら私はそのお店に入って、シナモロールのぬいぐるみを買っていた。思わぬ散財だったけど部屋のインテリアにもなるし話題作りにもなりそうだしOKとする。
その後もお菓子や服などを少し買い、満足気にショッピングモールを後にする。すると程なくして高校時代の友達が声をかけてくれた。
2人ともこの後の予定は無かったから、一緒に私の家まで向かいゲリラお泊まり会を実行する。
｢瑞稀がシナモンとか珍しいね。服もそんな濃い色着てるとこ見たことないんだけど！趣味変わった？｣
友達に買ったものを見せれば、不思議な顔をされた。
言われてみれば、私の服装は所謂くすみカラー。あまり彩度の高い服は着ない。
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作者名：杉山 | 作成日時：2023年8月17日 1時
