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種まき ページ2

your side

木炭での下描きが終わり、有色下地にしようとキャンバスに絵の具を乗せ始めた瞬間ペインティングナイフが折れてしまった。

高校時代から使っていた物だからガタが来たのだろう。


生憎今日はペインティングナイフは1本しか持ち合わせていないため、生協に買いに行くか今日の制作は中断して家から替えのペインティングナイフを持ってくるしかない


油彩画は比較的乾くのが遅いが、それでも油壺の中に入っている油は悪くなるし、絵の具はたっぷりとパレットに出してしまった後だ。1日も置いておけばいくら油絵具でも表面が乾いてしまう。


何よりこんなにもやる気に満ち溢れているのにお預けを食らうのは辛いものがある。


周りに聞こえぬように溜息をつきながら仕方なく絵画棟を後にして生協へ向かう。

ペインティングナイフを手に取り、無事に会計を済ませる。
もう用もないので店の外に出ようとすると、ふと誰かに声をかけられた。

「あの、落とされましたよ」

スラリと背が高く、黒縁眼鏡をかけている男性の右手には、私の学生証があった。

『わ、すみません。』
財布にしまっていた筈だが、挟み方が甘かったらしい。
顔写真も載ってるんだから、もっとしっかり管理しなきゃいけないなぁ

拾ってくれた男性に会釈をし、そそくさと絵画棟に戻ってきた私は、彼の顔をぼんやりと反芻しながら意気揚々と下地を塗り始めた。


(穏やかな好青年だったな…)

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作者名:杉山 | 作成日時:2023年8月17日 1時

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