フェルマーの最終定理なんて解らないけど【QK】【trsk 】 (ページ30)

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10月中旬ページ30

＜今日は一日中冬並みの気温が続きそうです。防寒具を持っていく事をオススメします！＞

プツリと音を立たせてテレビを消す。ほんの数日前まであんなに暖かかったのに、一体この寒波はなんなんだ！

おかげで今年はまだ着なくて済むと思っていた冬用の厚手のコートを早めに着ることになってしまった。

雪国育ちだから寒さに強いと思われがちだが、なにせ関東と日本海側の寒さは違うベクトルだ。吹きすさぶ雪に慣れていても、びゅうびゅうと吹く北風には慣れてないのだ。

いつか両親にプレゼントとして貰ったマフラーに首を埋めながら低めのヒールを鳴らして街を歩く。

……ここの人達は皆歩くのが早い。一体何をそんなに急いでいるのだろうか？

もしかしたら家族や友人、恋人など大切な人が待っているのかもしれない。

ほかの誰かのために急げるというのは、かなり贅沢な事だと思う。私にもそんな人が現れるのだろうか。
一瞬鶴崎さんの顔が思い浮かんだが、かぶりを降って打ち消す。

……やっぱり寒いとセンチメンタルになってしまう、気がする。はやく事務所にいって暖まろう。

「おはようございます。」
もう何回目かも分からなくなった挨拶を経て席に着く。今日の仕事は動画編集の研修らしい。乾さんがついてくれるらしいが未だ話した事ない人種すぎて緊張してきた。

1人手のひらに人の文字を書きながらウンウン唸っていると、誰がこちらに向かっているのを視界の端で捉えた。
「えーと、草薙さんですよね？今日研修の担当をする乾です」

誰かは乾さんだったらしい。見る度に色が変わっているような気がする髪を撫で付けながら、控えめに自己紹介をしてくれた。

『こっちから行かなくてすみません。今日からよろしくお願いします。』

「じゃあ編集はこっちのパソコンでやるんで、着いてきてください。」
その言葉を合図に仕事内容を頭に叩き込む準備をする。

……疲れた。未だかつて無い程にパソコンと睨めっこしたのではないだろうか。
時計を見るとあれから3時間半は経っていた。

身体の中にあった二酸化炭素を吐き出しながらグウっと伸びをしていると、ふと乾さんが呟いた。

「猫、好きなの？」彼の視線は私のスマートフォンのストラップに向いていた。もふもふな四足歩行の動物なら全部可愛かろう。
『猫、好きですよ。勿論ほかのモフモフも。』
たった数時間の交流で敬語を使わなくなったＺ世代ど真ん中の先輩に答える。
先輩はフゥンと相槌を打ってそのまま私が作ったshort動画のチェックに入ってしまった。

やっぱり、わからない人だ。