『カカオマスの薫りと共に』その2 ページ12
時は2月14日。ついに当日である。
丁度良く次の講義まで3時間ほど時間が空いている為、今のうちにオフィスに暇を潰しに行く。
私はカバンの中に入った社員さん用のチョコレートと、綺麗にラッピングされた彼へのチョコレートがきちんとある事を確認し、ホームへと降り立った。
もうチャイムを鳴らさなくても良くなったスムーズに開く扉を開けて、挨拶をしながら部屋に入る。
『こんにちはぁ…』
おー、こんにちは、など中にいる人は思い思いの返事を返してくれる。時間帯が微妙と言うこともあって今社内にいるのは福良さんや須貝さん、山本さんら15人程度。
…あの人は居ないみたい
少しだけ、寂しいなんて思ってしまう程には堕ちているらしい。
「瑞稀ちゃんなんか大荷物だね。もしかして…？」
『はい、バレンタインのチョコレートです。良かったら皆さんで食べて下さい』
最初よりよっぽどマシになった笑顔で須貝さんの質問に答え、全員に配り始める。
皆喜んでくれているようだ。こうして人にプレゼントを渡すというのも案外悪くは無いみたいだ。
「これもしかして草薙さんの手作り？随分器用だね」
ラッピングをまじまじと見ていた福良さんが質問する。
『ご名答です。嫌だったら全然捨てちゃって構わないので』
きっと福良さんが捨てる事など無いとわかっていながらこんな事を言ってしまうのは私の悪い癖だ。
実際目の前の上司はそんな事しないよ。と笑いながら包装を解いていく。
他の方の口にも合ったようで、山本さんに至っては口いっぱいに詰め込みすぎて栗鼠のようになっている。やはり彼は可愛らしい。
和気あいあいとした空気が流れる中、
「お、なんか美味しそうなの食べてる〜」
と間伸びした声で話しながら先程私が入ってきた扉から姿を見せたのは、
紛れもない鶴崎さんだった。
マズイ、鶴崎さん用のチョコレートは他の人に比べてかなり装飾が凝っている上に、種類も違う。
公私混同を嫌う私は、職場の誰にもこの恋心を明かしてはいない。そしてこれからも明かすつもりはないのだ。
今ここで彼の為の菓子を出してしまえば、私の好意はこの聡明な奴らにはすぐにバレてしまう。
「今瑞稀ちゃんがバレンタインで手作りのブラウニー差し入れしてくれたんだよ。もうね、めっちゃ美味い。」
須貝さん、今だけは黙っていて欲しかった。
「手作りのブラウニー⁉︎それは凄い！瑞稀ちゃん女子力高いんだねぇ」
前言撤回。須貝さんありがとう
『カカオマスの薫りと共に』その3→←『カカオマスの薫りと共に』
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作者名：杉山 | 作成日時：2023年1月23日 22時
