ただ、君だけ。〈番外編〉(ymin)

番外1.キスしたくて。 ページ2

「やまちゃんが、好き、だから……。
ずっと、傍にいて……。
俺を、恋人に、して……」


そう言われて、俺は我慢できなくて。


「伊野尾ちゃんを愛してる」


気持ちを伝えて。
伊野尾ちゃんに、触れるだけのキスをした。








それからもう、２週間くらい。
伊野尾ちゃんに対する驚異は消えて、平和な毎日を過ごしている。
俺の家で。
一緒に暮らす毎日は本当に幸せだ。


「伊野尾ちゃん、そろそろ寝る？」
「ふぇ？うん、そだね」


目がとろんとして、眠いのかなって思って声をかけたら、やっぱりだった。
こうした変化に気付けるようになったことも、すごく嬉しい。
一緒に暮らすからこそ、なんだけど。
でも、同時に生殺しのような状態がずっと続いている。


その状態を作ってるのは俺だ。
伊野尾ちゃんに触れたくて堪らない。
抱きしめたら、そのまま唇を塞いでしまいたいと思うのに。
抱きしめるだけで精一杯。


ーーーもしも、怖がらせてしまったら。


そう思うと、手を出せなくて。
キスも、あの日にした１回きり。


「……やまだ……？」
「ん……何でもないよ。
おやすみ、伊野尾ちゃん」
「おやすみ、やまだ……」


一緒にベッドに入っても、俺は頭を撫でるくらいしかできない。
伊野尾ちゃんは、そんな俺に微笑んで、満足げにして眠るから。
今も、すぐに目を閉じてしまった。


「……伊野尾ちゃん、愛してる」


寝ていたら大丈夫だろうか。
何度もそう思って、眠る伊野尾ちゃんに愛を囁きキスをしようと顔を近づけても。
結局そのまま離れて、伊野尾ちゃんと反対の方向に向いて寝る。
幾度の夜をそんな風に過ごしたのだろう。
だって、もしも、してしまったら。
自分の箍が外れてしまう、絶対に。
息継ぎなんて出来ないくらい、その柔らかな唇を塞いでしまうんだ。
伊野尾ちゃんの意思も聞かずに。
そんな風にしてしまったら、伊野尾ちゃんに事件の恐怖を思い出させてしまうかもしれない。
その影響で俺を拒絶するかもしれない。
それが怖くて出来ない。
俺は、なんて臆病なんだろう。
怖いのは伊野尾ちゃんの方に決まってるのに。

＊→←▽お久しぶりです。

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