ただ、君だけ。〈１〉(ymin)

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スタジオに移動して、まずはメンバー全員でのショット。
今回は全員横1列に並んでの撮影だ。
くっついてと言われればそうするけど、俺は１番端っこでくっつかずにポーズ決めた。
隣の高木は、何も言わなかった。


「はいありがとうございまーす。
続いて2ショット撮影入りまーす」
「はい、えーまずは有岡さんと伊野尾さんからお願いします。
他の皆さんはこちらで待機でお願いしまーす」
「はーい」


返事して、呼ばれた俺と大ちゃんはカメラの前へ。
他の皆は近くのイスに腰かけて待機。
大ちゃん、ちょっとうろたえてる。
俺のさっきの態度、変だったから、だよね。
ごめんね大ちゃん。
撮影は、がんばる、からね。
仕事だもん。


「はい、ではいきまーす！
有岡さん伊野尾さん可愛い笑顔でお願いします！」


可愛い、って。
ちがう、俺は、可愛くなんか。


『可愛いよ慧ちゃん』


ッ、アイツじゃない、忘れろ……！


身体が震えだしてる。
止まれ、止まってよ……！


「……ちゃん？」
「伊野尾さん硬いです！
もっと笑顔お願いします！
可愛い感じで！
有岡さんと思いっきりくっついていきましょう！
ぎゅっと！はいえがおー！！」
「あ、はい！」


横で顔を強張らせてる俺を見て大ちゃんが声をかけようとして。
カメラマンさんが遮るように指示を出す。
大ちゃんが、慌てて、それに答えるように。
俺を抱きしめた。


その瞬間。
ゾワリと背筋が凍って。
大ちゃんを振り払って。
頭を抱えて。
何も、分からなくなった。


「あ、あぁ……！！」
「え、ちゃん？」
「い、や……！！」
「伊野尾さん可愛くお願いし……伊野尾さん？」
「いや、っ、はぁ……、やめ、て……！
ッ……は、……ッはぁ、はぁーッ、はぁーッ……！！」


頭にアイツが浮かんでくる。
今、俺に触ってるのはちがう、アイツ、ちがうちがう！大ちゃん、大ちゃん、じゃない？アイツ？分からない、分からない！
苦しい、苦しくて、ちがう、落ち着かなきゃ。
深呼吸、吸って、吐く、あれ、どうやるんだっけ、息って、どうすればいいんだっけ……。


首に手をやって、必死に息をしようとするけど、出来なくて。
苦しくて、その場に崩れ落ちて。
カメラマンさんは呆然、大ちゃんは、背中を擦ってくれてる、なのに。
その手が、怖いの。


「救急車呼びます！！」
「「「伊野尾(ちゃん)(くん)！！！」」」


マネージャーや皆が駆け寄ってきてくれる。
ああ、もう、ごめんね……。

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