ただ、君だけ。〈１〉(ymin)

1.気のせい、じゃない。 ページ2

「ッ……！」


バッ、と後ろを振り向く。
そこには、テレビ局特有の扉がたくさんある廊下が続くだけ。


「ちゃーん、どうしたー？」
「大ちゃん…や、なんでもなーい」


隣を歩いていた大ちゃんがちょっとびっくりしてる。
そりゃ、話してる最中にいきなり後ろ向かれたらビビるよね。
でも、今、また。
見られてるような気がして。
最近、よくあるんだけど、大したことじゃないかなって、メンバーには相談してない。


「今日ってMC誰だっけ？」
「ほぁ？え、えーと、光じゃない？」
「おー！絶対面白いやつじゃん！」


今日はいたジャンのスタジオ収録。
メンバー全員同じ控室で、わちゃわちゃしながら待機してる。
たまたまお手洗いで席をたった時に大ちゃんが一緒に来てくれたんだけど、正直助かった。
気のせいだとは思っても、最近１人になるのが少し怖い。
他愛ないことを話しながら、歩ける相手がいることの心強さったらないよ…。


「ただーいまー」
「おかえりー！」
「さっきスタッフさん来たよ。
もうすぐ収録始めるって」


トイレから帰っただけなのに、大ちゃんがただいまって言えば口々にお帰りと返してくれる。
薮は、さすがしっかり者で、きちんと大事なことも伝えてくれる。
ほんとにいいメンバーですよ、恥ずかしくて言えないけど。


ただ。
真ん中に集まってわちゃわちゃする8人に、俺も参加することにはする。
でも、俺が勝手に感じてる、ピンの仕事が増えてからの、ちょっとした距離。
いいのかな、って。
たまたま先輩がいじってくれたから。
たまたま変なものが釣れたから。
だから、たまたま注目された。
俺の実力なんかじゃない。


ずっと後ろだったのに、裕翔や光の場所、俺が取ってない？
センターの山田がグループの形なのに、俺、前に出てきちゃってない？
テキトーとか、ヘラヘラしてたりとか、俺の言動って、皆にはどう映ってるのかな。


不安ばかりが募って、
皆といても一緒に騒ぐタイミングが最近掴めてないよ。
迷惑だけはかけたくない。
そんな思いもあって、余計に相談なんか出来なかった。

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