本能(ymin)

＊ ページ25

「……変えなければ共には居られないんだ。
どうしたって人間の方が先に死ぬ。
朽ち果てる愛する人を見ていられるほど強くはないから」


やまだが、おれを見る。
目が、合った。


「俺は、伊野尾ちゃんのことが好きだよ」
「ッ、！」
「……けれど、伊野尾ちゃんと付き合ったり、恋人として触れ合うことは、したくない」
「……そん……な……」
「……伊野尾ちゃんが、俺のことを……想ってくれていても。
その手を取るわけにはいかない」


なんて、酷い告白。
おれを好きだと言いながら。
おれの気持ちも、お見通しで、ぜんぶぜんぶ、知っておきながら。


……そもそも、おれが、やまだの秘密を知ってしまって。
仕事を続けたい、グループにいたいという強い気持ちを、真剣におれに伝えてきたから。
だからおれは、やまだのために出来る限りのことをしてきた。


血をあげると、咬まれる首筋は痛いのに、触れるやまだの手が優しくて。
鼓動が収まらなくて。
特別とか言うくせに、知念には全部話してるし。
やまだの言葉や行動にいちいち振り回されるようになっちゃって。
気付いたら……好きになっていて。


やまだの、せいなのに。


「おれは……やまだのこと……好きでいちゃ、いけないの……？
やまだは、おれの気持ち全部否定するの……そんなの、ひどすぎるよ……」


おれたち、両想い、なんでしょ？
どうして恋人にはなれないの？
好きでいてくれるのに、なんで……？


「伊野尾ちゃんには、幸せになってほしい。
俺とじゃない。
相手は女でも男でもいい、伊野尾ちゃんが幸せに一生を過ごせる相手を見つけて……」
「だから、おれはやまだが好きなの！！
やまだとずっと一緒にいたいって思って、」
「俺とじゃムリなんだよ！！
俺は、伊野尾ちゃんのこと本気で好きだ、愛してる！！！
だからこそ伊野尾ちゃんが先に死んでいくのを、看取ることなんか出来ない……っ……！！」


激しく言い合いをして、最後にやまだが、自分の前髪を掴むようにして頭を抱えた。
手のひらが目に当たるようにして、泣きそうなのを堪えているみたいで。


やまだの言うことが、やっと分かった。
やまだは怖いんだ。
おれが死ぬのを見るのが。
このまま恋人になっても、いつかはおれが先に死んでしまう。
吸血鬼の寿命がどれくらいかは分からないけど、おれたちが一緒に過ごせるのは多分、吸血鬼の一生のうち、ほんの僅かな時間なのかもしれない。


おれが、人間だから……。

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