本能(ymin)

＊ ページ19

ふ、と首筋からぬくもりが消えた。
痛みが薄れて、離れた時に一瞬見えたやまだの瞳は……紅い。


どくん。


鼓動が激しくなる。
あつくて、たまらない。
キズを治すためにやまだの舌が首筋に触れた。
たったそれだけで、びくびくと反応して。
なんで、こんなになっちゃうの。


「あ、あぁ……も、だめ……！」
「ッ……くそ！！！」


ダンッ！！


やまだが、おれの顔の横の壁を殴った。


「ひッ！……え？」


突然で、驚いて見つめるやまだの表情は、ひどく歪んでいる。
瞳はいつもの色だ。
でも、なんでそんな表情するの。
なに？
おれ、何かしたの……？


「ッ……ごめん、伊野尾ちゃん……ほんとに、ごめん」


謝るのはなんで？
その必要は無いのに。
ねぇ、やまだ。
何をおもってるの？
教えてくれないの？


「キズは治したから。
先に戻って」
「ッ……なんで！？」


思わず声を荒げてしまった。
遠ざけようとするやまだに、滅多に感じない怒りが沸き上がって。


「やまだ、ねぇ、やまだにとっておれってなんなの……！？
ただのご飯なの！？
都合のいいことばかり言って、本当はおれのことなんて、食べ物としか見なしてないんじゃない！？」
「ちがう、俺は……！！」


俺は、何？
その先を教えてほしいのに。
何を、隠してるの？
やまだは、口を開いたけど、そのまま何も発することなく、つぐんでしまった。


なんで、おれ、やまだが好きなんだよ……！
だから、こんな風に血をあげるのだって赦してるのに……！
ねぇ、じゃあ、もう。
気持ちをぶつけたら、この状況は、変わるの……？


「やまだ、おれ、おれは……！！」
「ッ……！！！」
「おれ、やまだのことがす……ッ！！！」


最後まで、言えなかった。
やまだが塞いだから。


唇で、ならロマンチックだったよね。
ちがう。
文字通り、塞がれた。
手で、口を覆われたの。
それ以上言うなって、いうみたいに。


「……ごめん」


バタン。


ドアが閉まった。
やまだが、おれから離れて。
背を向けて。
帰った音。


視界が霞む。
火照った身体が急激に冷えていく。
こんな仕打ちあんまりだよ。


告白すら、させてもらえないなんて。


音もなく。
ただただ、涙だけが溢れる。
立ち尽くしたまま、動けなかった。

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