本能(ymin)

＊ ページ11

「あの……」
《とりあえず気づいてよかったけど。
体調はどんな感じ？》
「え、と、普通……です……」
《…………》
「…………」


無言が続く。
ほんと気まずいどうしよう！
テンパってたら電話口からため息が聞こえてきた。


《……いのちゃんさ》
「ひゃいっ！」
《一言で噛むって何なの！
じゃなくて、トイレのとこで倒れてたんだよね》
「……そうみたい？」
《僕と涼介の会話聞いてたんでしょ》


人間図星つかれると固まるものよ。
何も答えらんない。
そしたら、やっぱり、っていう知念の呆れ声。


《いのちゃん何か変な想像してる？》
「え……」
《僕の血を涼介が飲んだのは、いのちゃんより好きだからとかじゃないからね》
「えっ」
《僕はむしろあんまり血あげたくないんだからね！
今日のは、いのちゃんのためだよ！》
「は……？」


よくよく話を聞いたら、どうやら最近のおれ顔色悪くなってたみたい。
暗くてどことなくボーッとしてて、そんなの絶対貧血だし山田に血をあげすぎだったっていう……。
今日倒れたのもそのせいだって。


《みんなに何て誤魔化すかも本当に苦労したんだよ？
涼介のせいだなんて言えないし。
僕にだっていのちゃん巻き込んだ責任あるしさぁ》
「え……でも、知念は貧血で倒れたりとかなかったじゃん。
何でおれ……」
《そんなの、涼介がいのちゃんを気に入っちゃって何度も求めちゃって、いのちゃんもいのちゃんで涼介に甘いからすぐあげちゃうのが悪いんでしょ》


何も言い返せない。
というか……気に入って、そうなんだ……。
やまだ、おれのこと気に入ってくれてるんだ。


《だからいのちゃんも少しはセーブして……いのちゃん聞いてる！？》
「ききききいてる！！」
《もう！！
だから、今日しっかり涼介に言っときなよ！！
回数減らすの！！》
「わ、わかった！」


じゃあね、って電話を切ったところで山田が帰って来た。
どうしよう若干恥ずかしい。


「随分なんか、叫んでたね」
「そ、そう？
気のせいじゃない？」
「いや誤魔化されるか。
知念、怒ってたでしょ」
「う……うん……」
「……倒れたの、俺のせいだって」


山田は、明らかに沈んだ表情だった。
持ってきてくれたのは薬箱。
おれが寝かせてもらってるベッドに自分も腰かけて、その脇に薬箱を置いた。


「あの……それ」
「あ、うん……手当てしようと思って」
「手当て？」
「倒れた時にぶつけたんだと思う。
肩、擦りむけて血が出てた。
その匂いで気付いたから」

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