本能(ymin)

本能・４ ページ14

あの日のことが頭から離れない。
あんな、激しくて、甘くて、どうにかなっちゃいそうなキスなんて。
やまだは、“ありがとうのキス”なんて言ってたけど。
翌日に、ゲームをやってない時を狙って知念に相談したら、そんなもの無いよ、って言われた。
やっぱり無いんじゃん。


じゃあ、あのキスはいったい何だったんだろう。
やまだはどうしておれにキスしたの？


聞きたいけど、聞けない。
そんな勇気なかった。


あれから、１週間ほどが過ぎて。
そろそろまた、血が必要になるだろうけど、どんな顔したらいいのかな。


「伊野尾ちゃん」
「ふぇ！？」
「え、どうしたの」
「いや、ちょっと驚いただけ、ごめん」


当の本人が声かけてきて、びっくりして変な声が出ちゃった。
やまだは不思議そうな顔をしてる。
でも考えてるときに声かけてくんのがいけないんだよ！


「あのさ、今日俺ん家来ない？」
「やまだの？」
「うん。
美味しいご飯作るし。
……代わりに、って言うのもあれなんだけどさ」
「あー、そ、だね。
うん、分かった」
「じゃあ、終わったら待ってる」
「うん」


約束をしたら、やまだが他のメンバーのとこへ戻っていった。
おれは１人ぽつんと考える。


今日、また血をあげるんだ。
ほんとに、どんな顔したらいいのか分からないよ。
やまだは何の気なしに、おれにキスしたのかも。
こんな風に簡単に誘えちゃうんだよね、たかがキスって感じだよね……。
ぐるぐる考えてるおれが変なのかな？
やまだにとって、おれは何……？
お気に入りとは言ってたけどそれって、おれはただの、お気に入りのご飯ってことかな……。


「いのちゃん」
「あ……ちねん……」


今度は知念に声をかけられた。
思った以上に小さな声になったのか、心配そうな表情を浮かべていて。


「大丈夫？」
「…………」


答えられなかった。
もやもやして、ちょっと泣きそうで。


「……おいで、いのちゃん」


知念が、おれの手を引いて。
２人でみんなから離れて、誰もいないトイレへ連れてってくれた。

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