ただ、君だけ。〈IF〉(ymin)

＊ ページ39

指輪の入っていた紙袋から、そっと取り出したもの。
指輪のケースより、少しだけ大きくて。
それを伊野尾ちゃんが満面の笑みで差し出した。


「これを、おれからやまちゃんに」
「え……？」
「９日にやったサプライズ、ケーキだけだと寂しかったなって思って。
びっくりするやまちゃんが見たかったから……。
どう？びっくりした？」
「……う、ん……びっくり、した……」


驚き目を丸くしながら、そのケースを受け取る。
開けていい？と聞けば、伊野尾ちゃんはうん、と頷いてくれて。
ゆっくりと、それを開けた。


入っていたのは、シルバーローズのネックレスだった。
そのローズの中心には、綺麗な翠色に輝く石が嵌め込まれていて。
とても、美しい。


「その、翠色のは、エメラルドってやつ。
やまちゃんの誕生石なんだって。
お姉さんのお友達さんに聞いたの」
「そ……なんだ……」


歓びに、言葉が出なくて。
ただ、相づちを打つことしかできなくて。
伊野尾ちゃんは、俺が黙っているせいで気に入らなかったのかと思っているのか、不安そうな顔をこちらに向けてる。
そんなんじゃない。
嬉しすぎて、何も言えないだけなんだよ。


「あの、やまちゃん……？」


ネックレスをケースから取り出す。
それから、伊野尾ちゃんに差し出して。


「つけてくれる……？」
「う、うんっ！」


伊野尾ちゃんが受け取って。
俺が後ろを向いたら、伊野尾ちゃんが首元にチェーンをまわしてくれる。
出来たよ、という声と共に振り向いて。


「すごい、似合ってる！」
「……っ……！」


笑顔で言ってくれるから、我慢できなくて俺はそのまま伊野尾ちゃんを抱きしめた。
わ、と驚いた伊野尾ちゃんだけど、抱きしめ返してくれて。
背中を、優しい手つきでぽんぽん撫でてくれるから、俺は感極まって、泣きたくはなかったのに。
我慢できず、鼻の奥がツーンとして、視界がぼやけていくのを感じた。


「ふふ、気に入ってくれた、ってこと？」
「っ、めちゃくちゃ、気に入った……っ！」
「よかったー！
何も言ってくれないんだもん！」


俺が泣いていることには触れないでいてくれる伊野尾ちゃんの優しさ。


「あとね、なんか宝石言葉？みたいなの聞いたんだけどね、エメラルドって、“幸福をもたらしてくれる”みたいだから。
やっぱしさ、ね、やまちゃんが幸せならおれも幸せかな、なんて」

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