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「……別にいいですよ」
「そうか」
「ただ、1つお願いがあります」
「……願いだと?」
「ええ……僕を、お店に連れてってくれませんか」


小山内さんは、少し目を見開いた。
驚くのも無理ないと思う。
それに、許されないだろう、とも。
案の定小山内さんは呆れたように、本気で言っているのか、と言った。


「何をしたいとかはないんですけど……。
ただ、お店が見たいんです。
お願いします……」


その場で、小山内さんに頭を下げる。
どうしても、見ておきたいと思った。
小山内さんと話しているうちに思い出してしまったから。
あの……お店の、雰囲気を。


暫くの沈黙の後で、小山内さんはため息をつき、少し待っていろと病室を出ていった。
言われた通り大人しく待っていると、10分かからないうちに戻ってきた小山内さん。


「鍵は持っているのか」
「え……あ、はい、俺の所持品の中にあるはずですけど」
「分かった。
今車を手配した。
すぐに着くからその前に服を着替えろ。
入院着で外を歩かせる訳にはいかない」


それだけ言うと、小山内さんは再び病室を出ていった。
気を遣って、外に出てくれたんだろう。
……まさか、許されるなんて思ってもみなかった。


床につけた足が震える。
多少は短時間だけど散歩をする機会があったが、やはり長い入院生活で筋力が落ちてしまったようだ。
歩くのがやっとの状態だけど、一生懸命動かして。
近くのタンスに入れてあったシャツを取り出して、着替える。


小山内さんが、俺の血濡れた服を捨てて代わりに用意したもの。
服の側にはあの日俺が持っていた数少ない所持品があり、その中で店の鍵だけを掴む。
病室の扉を開ければ、見張りの男性と、小山内さんが待ち構えていた。


「言っておくが、逃げたら即警察に通報するぞ」
「分かってますよ。
逃げるつもり全くないんで、安心してください」


疑いの目を向けられるが、そのことより久々の外やお店に少し気分が高揚して、自然と微笑みが浮かんでしまう。
そんな俺の様子に小山内さんはまたため息をついてから、車へと連れていってくれた。
後ろからついて行く俺のスピードがかなり遅いことで筋力の衰えに気付いてくれたのか、途中から支えてもくれた。


小山内さんという人は、相手がどんなでも結局は助けてしまう優しさの持ち主らしい。

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りりた(プロフ) - 冬さん» ありがとうございます、なんとか時間を作って更新したいと思います、今しばらくお待ち下さい。 (2018年11月29日 18時) (レス) id: 068b0a2ee5 (このIDを非表示/違反報告)
- とても面白いです!!!続きが気になります!!更新頑張って下さい!!! (2018年11月29日 1時) (レス) id: 6f8cf75a15 (このIDを非表示/違反報告)
りりた(プロフ) - 白米プリンスさん» コメントありがとうございます、気付くの遅れてすみません…!ありがとうございます!そし誰見返す度に日下ロスに陥り、とうとう妄想を始めてしまいました(笑)ちょっとずつ頑張りますので、宜しくお願いしますm(_ _)m (2017年9月21日 9時) (レス) id: 068b0a2ee5 (このIDを非表示/違反報告)
白米プリンス(プロフ) - まさか「そし誰」の続きがりりた様の作品で読めるなんて…!ただいま絶賛感動中でございます。そしてバーテンダーの伊野尾様を思い出して悶える始末です(ただの変態)これからは更新の通知が来る度飛んで来ようと思います笑 (2017年9月12日 17時) (レス) id: bc3c2630ce (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:りりた | 作者ホームページ:___  
作成日時:2017年9月11日 1時

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