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じっと、隣に座って炎を見つめる永江の目の中に赤い赤い何かが揺れて動く。
今日一日家から離れていたというだけでどこか草臥れたように感じる彼女から何か強いエネルギーが発せられているように感じた。
(取り憑かれてる)
炎の神にでも気に入られたか、炎を見つめる彼女からはなにか普通でないオーラが漂っていた。
飛んで火に入る夏の虫。
ふとそんなことわざを思い出した。そしてこの状況と別になにも重ならないことを確認して頭の中から消し去る。
「煌兄ぃって、お兄さんなのか」
永江に兄がいないことを知っていながらそんな事を口にした。
永江は弾かれたように俺を見てそして目を細めて首を振った。
「隣に住むお兄ちゃん、実兄じゃないの」
「そうなのか」
「うん」
知っていたくせに、何故わざわざ…
そう自問するくせに俺は彼女へ質問することをやめない。
「好きなのか?」
あぁ、だめだ。どうして聞いた、俺。なにをしているんだ。
身を硬くして返答を待つ。
永江は炎へ視線を戻して答えた。
「好き、だよ」
あぁ!!
絶望に似た後悔が心臓部に広がる。
わかってただろなんで聞いたんだよ。
「でも、結婚するみたい」
次に紡がれた言葉を聞いて俺はピタリと呼吸を忘れる。
永江の方へ顔を向けると、彼女はすでにこちらを見ていて小さく笑った。
「五年間ずっとそうだったんだけどね、初恋って実らないっていうから…」
「…………そんなことはない、ただその人に見る目がなかったんだ。だって永江はこんなにいい奴なのに」
そう言っておきながら心の中では喜んでる自分がいる。最低だ。
それでもそんな俺の心内を知らない永江は笑って涙をこぼす。
「私、降谷を好きになりたいな」
なん、て…………?
「って、私が言えたことじゃないけどね。こんなの降谷のファンの前で言ったら私刺されちゃうね」
前を向き直った永江の頬は赤い。
おちゃらけたように笑うけど、次第に照れてきたのか耳まで赤くなってきて、生唾を飲み込む。
伏せた長いまつ毛が潤んだ瞳を隠す。
その白い頬に手を伸ばせば、弾かれたようにこちらを向いた。反動で乱れた髪が散る。それをまとめて掬って耳にかけてやればされるがままになっていた永江が心地よさげに目を細める。
それで何かが切れた。
顎を掬ってその驚いて少し開いた唇に口づける。
なら、俺のこと好きになってよ
その一言はどうしてか言えなかった。
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Lailah(プロフ) - めちゃくちゃ良かったです。テーマの作品2つにも納得が行きました。その後の話も見てみたかったですがこれはこれで良かったです。良き作品を見せてくれてありがとうございます。 (2021年7月5日 12時) (レス) id: 59f1e2127c (このIDを非表示/違反報告)
はな(プロフ) - とても素敵な作品で、泣いてしまいました(笑)続きを作ってくださるのなら、楽しみにしています! (2021年5月6日 19時) (レス) id: 2fea210edb (このIDを非表示/違反報告)
澪華 - ↓ごめんなさい誤字です。正しくは「楽しく読ませていただきました。」です。 (2020年11月23日 5時) (レス) id: e31bd2e13b (このIDを非表示/違反報告)
澪華 - とても素敵な作品で、楽しく読ませてました。これから二人はどうなるのか、続き楽しみにしてます!頑張ってください! (2020年11月23日 5時) (レス) id: e31bd2e13b (このIDを非表示/違反報告)
麗(プロフ) - とても素敵なお話でした。読むのが止まらずあっという間に読み終わってしまいました。 続きが読めるのを楽しみにしてます!! (2020年11月5日 22時) (レス) id: 411fa15fdd (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:雪路 | 作成日時:2020年10月18日 0時