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「あっ、永江」

シャクリ。アイスが喉を冷やした。

「降谷。こんばんは」

「こんばんは。1人か?」

「うん、アイス食べたくなっちゃって。降谷も一ついる?」

「…いいのか?」

「いいよー多めに買ってるんだ。葡萄、ソーダ、林檎、オレンジ」

「…ソーダ」

「ほい」

袋を漁って差し出すと、私より一回り大きい手が透明の袋を掴む。

「ランニング?部活のノルマ?」

降谷はビニールを破きながら首を横の振る。

「まさか、自主練だよ、毎日駅から往復で」

「えっら、降谷の家って三丁目の方だったよね?」

降谷はアイスにかぶりついて、頷いた。

「少しでも遠回りになるようにしてるんだ」

「はぁーそれはそれはご苦労様です」

「何でちょっと敬語なんだ」

小さく笑って降谷は肩を震わせる。

「暑くないの?」

「?暑いよ、家に帰ったらシャワー浴びる」

「そりゃそうでしょ。でも、思い切り走った後の浴びるの気持ち良さそう」

「………一緒に走るか?」

「…遠慮しとく。絶対追いつけない、70mできっとバテる。駅までたどり着けない」

「それはないだろ」

いえいえ文化部をなめないでくださいと首を振る。

じっとりとした夏の空気が体を包んで少し気分を開放的にさせる。

「諸伏君ってさ」

「?」

「好きな子居たりするの?」

緩やかに流れていた空気が瞬間ピリリと張り詰めた。

「……どうしてそんなこと聞くんだ?」

「えっ…あ、友達が、好きなんだって。諸伏君のこと。よく、目が合うって言ってて。告白を考えてるみたいなの」

「へぇ」

どこかつっけんどんに返されて私はあれっ?と、何故だか裏切られたような気分になる。

「知らないな」

明らかに拒絶を含んだ声色に足がすくんだ。

「そっか、ごめんね?」

(そうだ、2人はモテるんだからこの手の話なんて散々聞かれててもう、嫌なんだろうな)

どこかいつもよりも心の距離が近いような。仲のいいような気分でいたせいで、どうやら地雷を踏んでしまったらしい。
アイスを分けたからって、他のクラスメイトが知らない自主練に誘ってもらえたからって、別に親友でもましてや特に親しい友人でもないのに、ただのクラスメイトが夏の夜に浮かされて、まるで何でも語り合える仲のように錯覚しただけのこと。

彼にとっては迷惑でしかないのに。

「それじゃ、また。明日な」

いつのまにか私の家の前で、彼はそう一言告げてすでに走り出してしまっていた。

何か声をかけるにも、彼の背中はあんなに遠い。

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Lailah(プロフ) - めちゃくちゃ良かったです。テーマの作品2つにも納得が行きました。その後の話も見てみたかったですがこれはこれで良かったです。良き作品を見せてくれてありがとうございます。 (2021年7月5日 12時) (レス) id: 59f1e2127c (このIDを非表示/違反報告)
はな(プロフ) - とても素敵な作品で、泣いてしまいました(笑)続きを作ってくださるのなら、楽しみにしています! (2021年5月6日 19時) (レス) id: 2fea210edb (このIDを非表示/違反報告)
澪華 - ↓ごめんなさい誤字です。正しくは「楽しく読ませていただきました。」です。 (2020年11月23日 5時) (レス) id: e31bd2e13b (このIDを非表示/違反報告)
澪華 - とても素敵な作品で、楽しく読ませてました。これから二人はどうなるのか、続き楽しみにしてます!頑張ってください! (2020年11月23日 5時) (レス) id: e31bd2e13b (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - とても素敵なお話でした。読むのが止まらずあっという間に読み終わってしまいました。 続きが読めるのを楽しみにしてます!! (2020年11月5日 22時) (レス) id: 411fa15fdd (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:雪路 | 作成日時:2020年10月18日 0時

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