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第262話 ページ3

キッと顔を上げて彼女は私を睨んだ。

「恨んでいるといってくれた方がマシよ!だって姿も変わってその上回復の見込みのない不調まで……」

ポロポロと彼女の目から涙が溢れ落ちる。

「私は…私はあの薬にそんな副作用まであるだなんて…」

自分の作った毒薬でこれまで死んできた人間。幼児化した人間。自身の罪。彼女はそれを自覚した日どれほど恐ろしかっただろう震えてきっと寝れやしないんだわ、だって私はそうだったから。全く同じなんてことはきっとないけれどここで涙を流しているのなら彼女は私と同じ思いをした人。

「本当に。ほんとよ、私、自分であの薬を望んだの。だから貴女を恨んでいない。それにね、お陰でこうして命があるわ。お礼を言うのはまた違うのかもしれないし、失礼なこと言うけどあの組織を欺く手法になり得た。だから私のことは気負わないで。どうか泣かないで」

跪いて彼女にハンカチを差し出せば彼女は被りを振って私の手を軽く押し返した。

「ありがとう、大丈夫よ」

絞るように言って彼女はぎゅっと強く目を閉じて瞳から涙を落としてから私と目を合わせた。

「私そんなふうに言ってもらってもそうですかなんて言って忘れられないわ。でも貴女が言ってくれたことは理解したしありがとう心に留めるわ」

本当に賢いななんて思いながら強い瞳に頷いてみせる。
彼女はこれから増えた罪に向き合って夜を過ごすのだろう。その折り合いをつける時間もまた必要なことだから私はそれ以上何も言えず視線を工藤へ向けた。

「ありがとう工藤」

「……いや」

「…私はこれでお暇するよ、これから楽しく歓談って雰囲気でもないしね」

「わかった」

工藤は頷いてそれから灰原哀を見る。

「1人にして。自棄を起こしたりはしないから」

「……ん」

「それじゃあ、また。今日はありがとう」

「いいえ、こちらこそ、そのごめんなさい」

「それこそ、こっちもごめんなさい」

謝り返すと彼女は虚をつかれたような顔をして眉を寄せてから顔を逸らす。

私はそのまま軽く会釈して準備途中の工藤を置いて先に玄関へと向かった。

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雪路(プロフ) - みおさん» みお様コメントありがとうございます!これからも好いていただけるよう頑張ります!ありがとうございます♪ (4月16日 14時) (レス) id: 3c2df6fdad (このIDを非表示/違反報告)
雪路(プロフ) - ルナさん» ルナ様コメントありがとうございます。こちらこそ閲覧いただきありがとうございます!!ありがたいお言葉励みになります。これからもAPTX4869をよろしくお願いします(*ᴗˬᴗ)⁾⁾⁾ (4月16日 14時) (レス) id: 3c2df6fdad (このIDを非表示/違反報告)
雪路(プロフ) - 彩快さん» 彩快様コメントありがとうございます!初期から見てくださってるんですか!?嬉しいです。こんな遅筆な作品を読んでくださりありがとうございます。。楽しんでいただけたなら幸いです♪ (4月16日 14時) (レス) id: 3c2df6fdad (このIDを非表示/違反報告)
雪路(プロフ) - マニ。さん» マニ。様はじめまして!ありがとうございます(*´∇`*)折角のお誘いですが、あまりにもサイトを開くのが不定期のため、お返事をお待たせすることになってしまうボードは遠慮させていただきます。。お誘い嬉しかったです、今後ともAPTX4869をよろしくお願いします。 (4月16日 14時) (レス) @page32 id: 3c2df6fdad (このIDを非表示/違反報告)
みお(プロフ) - とても好きな作品なので更新楽しみにしてます!! (4月12日 3時) (レス) id: 3cad66030e (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:雪路 | 作成日時:2021年7月4日 20時

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