第40話 ページ42
.
これほど時間を長く感じることはあったか、震える手を握りしめて丸まる。
「Aさん!」
エンジン音とともに降谷さんが現れ、私は降谷さんに駆け寄る。
「降谷さん!どうしよう、私…」
口を塞がれ、しぃと、静かにするようたしなめられる。
(あ…そっか、)
「ごめんなさい、取り乱して、あの安室さん私」
倒れたまま動かない男の腕に触れ、しばらくして降谷さんは小さくため息をつく。
「大丈夫だ、死んでなんかいない、今は気絶しているだけだから」
そう言って立ち上がり、私をぎゅっと抱きしめてくれる。
「…心配した」
「ふる、安室さん…」
「……すまない」
程なくして降谷さんは私から離れ、路上に落ちているナイフに目を向ける。
「何があったんだ」
「………」
「話したくないか?」
少し自嘲気味に笑って話したくないならいいと言う降谷さんに慌てて首を振る。
「…脅されて、……私、変わろうと思って、自分のしていることをリセットして、やり直そうって、思ったんです。それで今まで連絡を取っていた人とかにさよならをしていったら、この人だけ諦めきれないと、心中紛いなものを……」
「何で脅されたんだ」
「………………………動画」
それを聞くなり降谷さんはカッと目を見開いて男の懐から携帯を取り出す。
そのまま強く握りしめると、スマホがバキバキと音を立ててひび割れていく。
(握力、すご…)
「中のデータも必ず消去する。この男は麻薬所持で逮捕されるから、恐らく家も取り調べられるだろう。その際にパソコンも押収するから…」
「麻薬って…」
驚く私に降谷さんは錠剤が入った小さな袋を見せてくれる。
「懐から携帯と一緒に出てきた。よくあるタイプのものだ」
それを聞いて一気に力が抜ける。
「よかった……私人を殺したかと……」
「………」
「………安室さん」
降谷さんが何かを言いかけた時と同時にまたエンジン音がして、降谷さんを呼びかける声がした。
「風見か、この男を頼む。証拠はこれだ」
メガネを持ち上げ、私を訝しげに見る風見さんという方に降谷さんが首を振る。
「彼女は大丈夫だ。その男は殺人未遂および、麻薬所持で頼む」
「はい」
風見さんが去った後、降谷さんは急に私を抱き上げて車に乗せる。
「え、ちょっと」
「6月とはいえそんな格好では冷える」
送らせてくれと眉を下げて笑う顔にどれだけ安心したことか、また涙腺が緩んで泣き出す私に降谷さんが親指で涙を拭ってくれた。
379人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「名探偵コナン」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
あふらん(プロフ) - すごく面白いです!夢主の性格が本当に好きです。もしかしてクズの本懐知ってますか?意識されてる様なところがあった気がしたので、もしかしたらと思いました。違ったらごめんなさい! (2019年3月28日 12時) (レス) id: d39cf90419 (このIDを非表示/違反報告)
黒木朔(プロフ) - バニラさん» バニラ様、メッセージありがとうございます。うわ、本当に、お恥ずかしい。早急に修正させていただきます!本当にありがとうございます!! (2019年1月3日 10時) (レス) id: 1361aa9fb6 (このIDを非表示/違反報告)
バニラ(プロフ) - 論理ではなく倫理じゃないでしょうか (2019年1月3日 1時) (レス) id: f20c080281 (このIDを非表示/違反報告)
黒木朔(プロフ) - ハク様、メッセージありがとうございます。嬉しいです!これからもよろしくお願いします!! (2018年12月31日 19時) (レス) id: 1361aa9fb6 (このIDを非表示/違反報告)
ハク - とても面白い作品で一気読みしてしまいました!応援してます♪ (2018年12月31日 18時) (レス) id: 6941855deb (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:黒木 | 作成日時:2018年12月30日 17時