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第37話 ページ39

「ここからは歩いて行こう」

男は車を止めて、私に笑いかける。

「夜空を見ながら歩くのもいいよね」

私は何も答えずにただただ男の前を歩く。

「手をつなごうよ」

「……」

ここからどうやって逃げるか。
あいにく靴はこの男の用意したハイヒール。服装も黒いカクテルドレスで走りにくい。

「ねぇ、Aさん」

考えを巡らせている私に、男はまた敬称をつけて改まって呼びかけた。

「……なに」

「僕だって、本当はこんな事したくないんです」

「何を今更…」

振り返ると男は泣きながら独白する。

「初めて見かけた時、僕は貴女を天使だと思ったんだ。艶やかな黒髪と透けるような白い肌で、常に微笑んだような唇は桃色に染まっていた。羽のような長い睫毛が瞬くたびに、僕はドキドキして、潤んだ黒目と目があった時には恋に落ちていました。夏は細い首に伝う汗、冬は寒さに紅潮した頰。すれ違った時に香った柔らかな石鹸の香り。どれもこれも僕を貴女の虜にして、気がついたら声をかけていました」

「声をかけられた貴女は微笑んで、上手く話せない僕に"ゆっくりでどうぞ?ちゃんと聞きますから"って、………本当に、本当に好きだったんだ」

力なく俯いた男を見つめる。

「貴女と関わるうちにもっと貴女を知りたいと思うようになった。そして知った君の本当の顔は僕の理想とはあまりにも遠かった。それでも良かった。…君の側で話ができるなら、それだけでいいと……けれど、君はそれすら拒むようになった」



"理由はポアロのあの安室という男かい?"



俯きかけていた顔を上げると、男は泣きながら私にナイフを向ける。

「手に入れれないならそれでいい。けど、君が誰かの物になるのは………嫌なんだ…」

少しずつ距離を縮められ、私も少しずつ彼から距離をとる。


「本当に好きなんだ」

振りかざされた刃は私の目の前で銀色の弧を描いて煌めいた。

「お願いだから…好きなんだ……君を僕のものに……」

「い、やっぁぁぁぁ」


目の前が真っ白になったの。
私は彼の刃物を避けて、突き飛ばす。
砂利の音がズッと、音を立てて、彼は空でバランスを失った。




___どうしてこうなったのか、よく思い出せない___


目の前でただ、倒れ込んだ男を揺さぶる。

「え、ちょっと、ねぇ、ねぇ!!」




私、今、何した?

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あふらん(プロフ) - すごく面白いです!夢主の性格が本当に好きです。もしかしてクズの本懐知ってますか?意識されてる様なところがあった気がしたので、もしかしたらと思いました。違ったらごめんなさい! (2019年3月28日 12時) (レス) id: d39cf90419 (このIDを非表示/違反報告)
黒木朔(プロフ) - バニラさん» バニラ様、メッセージありがとうございます。うわ、本当に、お恥ずかしい。早急に修正させていただきます!本当にありがとうございます!! (2019年1月3日 10時) (レス) id: 1361aa9fb6 (このIDを非表示/違反報告)
バニラ(プロフ) - 論理ではなく倫理じゃないでしょうか (2019年1月3日 1時) (レス) id: f20c080281 (このIDを非表示/違反報告)
黒木朔(プロフ) - ハク様、メッセージありがとうございます。嬉しいです!これからもよろしくお願いします!! (2018年12月31日 19時) (レス) id: 1361aa9fb6 (このIDを非表示/違反報告)
ハク - とても面白い作品で一気読みしてしまいました!応援してます♪ (2018年12月31日 18時) (レス) id: 6941855deb (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:黒木 | 作成日時:2018年12月30日 17時

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