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「護衛をつけよう」
そう言い出したのは、ぴくとだった。
その表情は真剣で、きっとこの前の話が、彼にはそれなりに堪えているのだろう。
窓の外を見つめて、嫌なほどの晴天に恵まれた今日を憎んでしまう。
この空を、愛せない癖して、私は何を追いかけているのだろうか。
『過度な警戒は周りにも不安を煽る』
「周りなんか関係ない、一番危険なのはAなんだよ」
『抵抗を見せなければ直ぐに攻めてくる心配もない、それまでに手は打つ』
机の上を滑らすように差し出した、高級な封筒。
封はしてない、目線で読むように指示を出せば、ぴくとは恐る恐るそれを手に取った。
眉間の皺は濃くなるばかりで、また外の景色を眺めるしかない。
夏が過ぎてしまう前に、花が枯れてしまう前に。
もう一度、会いに行かなければ。
「…自分の命は二の次なの」
『それくらいの覚悟はしていた、手は打つと言っても、勿論武力手段はとらない、武器にするとすれば、私のこの命くらいだ』
「っ、Aがいなくなれば、それこそこの国は終わるんだよ、だから…！」
『ぴくと』
その言葉を聞きたいんじゃない。
あの人よりも断然頑固なんだ。
お前がどれだけ否定しても全速前進だったあの人よりも、私はもっと早く、お前を振り払い進まなければいけない。
茨の道をどうにか、私は終わらないことを望みながら、歩いていくしかないのだ。
『もう、決めたんだ』
下手くそに笑う私を、どうか許して欲しい。
私は知り過ぎたんだ。
姉達のように何も知らず、ただ淡々と、あの人の跡を辿って行ければよかった。
私はどうも、女よりも人を捨てきれないらしい。
手の震えは止まる気配はない。
しかし、この恐怖を、いずれ私はこの国から消し去らなければいけない。
私の願いであり、国民の願いである限り。
『本望と言えば嘘になる、ただ、確実に言えるのは、ここで自身を守ったところで、最後に残るは後悔のみだ、それを受け入れられたとしても、私は永遠にその後悔に身を焼かれ、きっと、また平和を求めた故の悪夢なのだと、間違いであることにも気付かれずに終わりを告げる』
「っ…」
『それに、私にはお前1人いれば十分だ、身の傷など治ってしまえばそれだけのこと、それでも、心の傷は、1人では抱え生きていくことも、治すこともできやしないんだ』
「…僕は…」
『選ばなくていい、辛いだけだ』
だからどうか。
何も言わずに、傍にいてほしい。
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作者名：そういろね | 作成日時：2019年8月9日 12時
