45日目 ページ45
『…大きくなったね』
「でしょ、多分、もう二人乗れると思うよ」
そういえば、そんな話をしていた気もする。
馬なんて城に来て初めて見たものだから、初対面にも関わらず、ひたすら馬ばかり見ていた。
そんな私に、彼は優しく、大きくなったら、二人で乗って出掛けよう、と言ってくれた。
それが、今思い返せば、心の中を隅から隅まで温めてくれる綺麗な思い出だ。
『…ごめんね』
「…何となく、予想はしてたよ、それに、Aが謝ることは何もないでしょ」
『私は、逃げてたから』
「脅威からは逃げたくなるものでしょ、わざわざ、危険を冒してまで、こっちに来なくてもいいよ」
『…脅威だなんて、思ってないよ』
「別に、無理に気遣わなくても」
『本当だよ』
「…」
私は、彼らに何もわかってもらえてなかった。
分かってもらおうとなんてしてなかった。
ただひたすらに、彼らから逃げる方法だけを探し求めてた。
近い道をわざわざ遠回りして、それを追いかける彼らの辛く苦しい顔を見ないふりして、振り返って心配をする素振りを見せただけ。
余計な期待ばかりを、彼らにさせていただけだった。
『…私ね、ずっと、皆に期待ばっかしてたの、偶に、悲しそうな顔をするから、もしかしたら、罪悪感があるんじゃないかって、優しい皆に戻ってくれるんじゃないかって、だから…突き離せなかったんだと、思う…』
「…Aは、優しすぎるんだよ」
『そんなことないっ…全部欲張って、結局自分のことだけしか見えてなかったの…!』
「そうだとしても、最後まで、俺らのことを仲間だって言ってくれたし、俺らの為に、わざわざ苦しい選択を選んでくれた、それだけで、もう、十分だよ」
『っ…』
都合が良すぎるのだと思う。
散々逃げたくせに、最後には悲劇のヒロインぶって泣くだなんて。
慰めてくれる皆の手を、いつも期待して、その期待に応えてもらえたら、また繰り返して。
結局、何もかも自分の為。
「でも、1つだけお願い聞いてくれないかな」
『…うん、いいよ』
「こいつらは、Aが面倒見てくれないかな、他の知らない使用人に任せたくはないから」
『……どうして、そこまで知ってるの』
「…さあ何でだろ、愛の力ってやつかな」
そんなキザな台詞を照れながらも言う彼の頰は赤くて、その頰に優しく唇をつければ、更に赤く染まった。
「どうか、幸せになって」
静かに眠る彼は、それは幸せそうだった。
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ぱずる(プロフ) - 感動してボロボロ泣きましたwなんと言えばいいのか分かりませんが、とても素敵なお話でした。面白かったです!! (2021年4月30日 1時) (レス) id: 6fda5d1ca9 (このIDを非表示/違反報告)
そういろね(プロフ) - みみみさん» コメントありがとうございます。返信が遅くなってしまい申し訳ありません!書き終えてから少し走り気味だったかもと反省していた部分があったので、好きという言葉をいただけて本当に嬉しいです!他の作品もよろしければ見てやってください。 (2020年3月6日 0時) (レス) id: 3979da825c (このIDを非表示/違反報告)
そういろね(プロフ) - わたあめさん» コメントありがとうございます。返事が遅くなってしまい申し訳ありません!走りが気になってしまった部分もあり少し心残りのある作品だったので、そう言っていただけると嬉しいです!他の作品もよろしければ見てやってください。 (2020年3月6日 0時) (レス) id: 3979da825c (このIDを非表示/違反報告)
みみみ - やっと見つけました! 本当に好きです! (2020年2月16日 17時) (レス) id: a3e96579f7 (このIDを非表示/違反報告)
わたあめ - 初コメ失礼します…?感想っていうか…この話本当に好きです。他のどんな話よりも。本当に。作者さんに尊敬の花束を。 わたあめ(語彙力溶けた) (2019年7月31日 11時) (レス) id: 058dc021e0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:そういろね | 作成日時:2019年4月9日 19時