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42日目 ページ42

『…ゾム、そんなとこにいないで出てきてよ』


息をせず、段々と冷たくなっていく彼らをそれぞれ膝の上に置き、その綺麗すぎる顔に、キスを1つ。
勿論、頰に。
サラサラと、指通りのいい髪を撫でていれば、背後に、感じ慣れた気配がした。
振り向かずに、問いかけた。


『何で止めなかったの?』

「止める必要なんかないやん」

『…ゾムも、全て知ってるの?』

「全然、だけど、生まれ変わっては会ってを繰り返してるって聞いて、なんか知らんけど、しっくりきてん」

『…そう』


彼も私も、お互いに顔を見せることはせず、ゆっくりと時間が流れるのを感じた。
彼には、暗殺の技術を沢山教えてもらった。
何も知らない、この世界じゃ赤子同然の私に、手取り足取り教えてくれた。
そこには、恋愛感情なんてものはなく、ただ真剣に、生き抜く術を教えてもらった。


『…!』

「…最期なんやから、ええやろ」

『…』

「俺じゃ、やっぱあかんのやろ…?」

『…あの人じゃなきゃ、駄目なの』


背中に伝わる彼の温もり。
その体温は、心なしか、いつもより冷えていて、寂しく感じた。
首元に回る腕に優しく触れて、今度は、確かに彼と向かい合って、その手を握った。
私から触れにいくのは、いつぶりだったのだろうか。
思えば、なかなか長い間、私は彼らから逃れようと、その手を避けてばかりいたけど。
彼らは、そんな私を、一体どれだけの月日追いかけてくれていたんだろうか。


「…Aに殺されるんやったら、幸せなまんま逝けるわ」

『本当に…?』

「好きな奴に看取られて、嫌がる男はおらんやろ」


そう言うと、彼は自ら私の小瓶を手に取り、三錠も手に取ると、一気に飲み込んだ。
私は、その潔さについ止めようと手がでるが、その手は優しく、ゾムの片手によって塞がれた。


「…毒でも死ねへんねやから、こんくらい飲まな、性懲りも無くAのこと追いかけてまうわ」

『…ありがとう』

「ひひっ、変な奴やな、Aは…また会いにいくと思う、だから、そん時は、俺の気持ち全部聞いてな」

『…うん』


無理矢理な笑顔だったが、彼は綺麗だと笑い、私の頰にキスを1つ落とす。
悲しく揺らぐその瞳が、私の涙腺を緩ます。
しかし、涙が溢れる前に、彼は目を閉じた。

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ぱずる(プロフ) - 感動してボロボロ泣きましたwなんと言えばいいのか分かりませんが、とても素敵なお話でした。面白かったです!! (2021年4月30日 1時) (レス) id: 6fda5d1ca9 (このIDを非表示/違反報告)
そういろね(プロフ) - みみみさん» コメントありがとうございます。返信が遅くなってしまい申し訳ありません!書き終えてから少し走り気味だったかもと反省していた部分があったので、好きという言葉をいただけて本当に嬉しいです!他の作品もよろしければ見てやってください。 (2020年3月6日 0時) (レス) id: 3979da825c (このIDを非表示/違反報告)
そういろね(プロフ) - わたあめさん» コメントありがとうございます。返事が遅くなってしまい申し訳ありません!走りが気になってしまった部分もあり少し心残りのある作品だったので、そう言っていただけると嬉しいです!他の作品もよろしければ見てやってください。 (2020年3月6日 0時) (レス) id: 3979da825c (このIDを非表示/違反報告)
みみみ - やっと見つけました! 本当に好きです! (2020年2月16日 17時) (レス) id: a3e96579f7 (このIDを非表示/違反報告)
わたあめ - 初コメ失礼します…?感想っていうか…この話本当に好きです。他のどんな話よりも。本当に。作者さんに尊敬の花束を。 わたあめ(語彙力溶けた) (2019年7月31日 11時) (レス) id: 058dc021e0 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:そういろね | 作成日時:2019年4月9日 19時

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