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40日目 ページ40

彼の”お願い”を叶えれば、彼は眠ったように息を止めた。
叶えただなんて、そんな綺麗なものじゃない。
言葉を変えれば、終わりの儀式とでも言うのだろうか。
何処かすっきりとした頭の中で、そんなことを考える。
ぐったりと、幸せそうな顔で眠る彼をあやすように抱きしめて、涙を流した。


『ありがとう、鬱』


迷いなど捨てきれなくとも、これが彼らと共に幸せになる、終わりを告げれる方法ならば。
彼をゆっくりとベッドに倒し、親愛の証として、彼の頰に1つキスを落とした。
口にはしない。


『…本当に、愛してた、鬱とは違う形でだけど、心から、一緒に死んでもいいとさえ思ってた』


心の底から、いつまでも思っていた本音を零して、立ち上がり、部屋を出た。
静まった城内に、一人、足音を響かせた。
行く先は、医療室。
ここには、沢山お世話になった。
彼らといれば、精神的にも身体的にも、いろいろと限界が来るものだった。


『…しんぺい神』

「おかえり、A、逃げれんかったらしいな」

『…貴方は、何処まで知ってるの』

「どう答えれば、Aは満足するん?」

『質問に答えて』

「何処からだって変わらへんよ、俺が見てきたのは、皆の最初と最後だけや」


そういうと、彼は机の引き出しから、錠剤が数粒入った瓶を取り出して差し出してきた。
こんなもの、頼んだ覚えはない。
首を傾げながら彼を見れば、逆に、不思議な顔をされてしまった。


「必要やろ、それ」

『これが何かわからないもの、必要かなんてわかりっこない』

「安楽死用の薬、大先生がわざわざ報告に来て、用意してあげてって言いにきた」

『鬱が…?』

「で、大先生は今何処にいるの?」

『…私の部屋』

「何で?」

『…戦闘用ナイフ』

「一思いにか、大先生らしいな、後残り何も残したくなかったんだろうね、Aも、決めたんなら逃げたら駄目だよ、やり通しな」

『…わかってる』


そう言えば、彼はよっこらせ、と立ち上がり、小さな鞄片手に扉を開けた。
そのままその大きな背中が見えなくなると思ったが、彼は何かを思い出したかのように、あ、と声を零して振り返った。


「これ、試作品だけど」

『?』

「もう、忘れない為の、俺の特製お薬」


彼はそう笑うと、背を向けた。
その背に向かって、最後の一言。


『愛してる、しんぺい神』


彼は、静かに言った。


「…気づいてたの」

『何となく、かな』


彼の頰にも、キスを1つ。
彼は、泣いた。

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ぱずる(プロフ) - 感動してボロボロ泣きましたwなんと言えばいいのか分かりませんが、とても素敵なお話でした。面白かったです!! (2021年4月30日 1時) (レス) id: 6fda5d1ca9 (このIDを非表示/違反報告)
そういろね(プロフ) - みみみさん» コメントありがとうございます。返信が遅くなってしまい申し訳ありません!書き終えてから少し走り気味だったかもと反省していた部分があったので、好きという言葉をいただけて本当に嬉しいです!他の作品もよろしければ見てやってください。 (2020年3月6日 0時) (レス) id: 3979da825c (このIDを非表示/違反報告)
そういろね(プロフ) - わたあめさん» コメントありがとうございます。返事が遅くなってしまい申し訳ありません!走りが気になってしまった部分もあり少し心残りのある作品だったので、そう言っていただけると嬉しいです!他の作品もよろしければ見てやってください。 (2020年3月6日 0時) (レス) id: 3979da825c (このIDを非表示/違反報告)
みみみ - やっと見つけました! 本当に好きです! (2020年2月16日 17時) (レス) id: a3e96579f7 (このIDを非表示/違反報告)
わたあめ - 初コメ失礼します…?感想っていうか…この話本当に好きです。他のどんな話よりも。本当に。作者さんに尊敬の花束を。 わたあめ(語彙力溶けた) (2019年7月31日 11時) (レス) id: 058dc021e0 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:そういろね | 作成日時:2019年4月9日 19時

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