15日目 ページ15
今日のAさんは少し様子が可笑しかった。
何処か緊張した様子だというか。
朝はいつもより早かったし、何処か上の空だった。
それに、手が微かに震えていた。
しかし、体調が悪そうな様子はないし、何か大事な用事でもあるかと思っていたが、一日、いつも通り城の中で書類の整理をしたり訓練の指揮をとったり。
『シイナ』
「はい」
『服が乱れてる、身だしなみはしっかりしなさいっていつも言ってるでしょう』
「…そうですね、すみません」
どうであれ、それが違和感ではなく、事実であったことは、この瞬間にわかった。
たった一瞬。
流れるようにポケットに小さな紙が入れられた。
監視カメラに映らぬように、盗聴器に音を拾われぬように。
その意図に気づき、いつも通り言葉を交わした。
訓練も終わり、簡単な書類を任されていたために戻ろうとしていた自室への道のりを急ぎ足で通った。
("理由はまた後で話をします。しかし、時間がないので、どうか私の指示に従って欲しいです。必要最低限の武器と貴重品を纏め、移動時、戦闘時に邪魔にならないようにしておいてください。"…)
綺麗ではあるが、走り書きで書かれたその字からは焦りが見て取れる。
最低限の武器、貴重品、移動と戦闘。
どう考えても、逃亡時の格好でしかない。
やはり、彼女は何らかのことがあって、彼らに縛り付けられていたんだ。
私は紙を握りしめて、もう一度ポケットに乱雑に入れると、すぐ様軍服よりも動きやすい服装に着替えた。
拳銃は重いので、連射できるものを１つと、弾のかえを数セット。
ナイフを5本と、貯めておいた多額のお金を小さな鞄に敷き詰めて、靴と共にクローゼットの中へと隠した。
大きくゆるい鞄だと、移動時に引っかかったりずり落ちたりしてしまったりするから。
『シイナ』
「…Aさん」
『今日の月がとても綺麗なの、寝る前に、軽く散歩でもしておかない？』
「…はい」
寝る前ではなく、動く前の準備運動がてらだろう。
互いに決意を含んだ目でアイコンタクトを交わして、まだ少し冷える外へと足を運んだ。
彼女の服は見たこともない服だった。
きっと、盗聴器を仕掛けられないように新着の服を取り寄せたのだろう。
『…急でごめんなさい、詳しいことはまだ話せないけれど、どうしても、貴女についてきてもらわなきゃいけない』
「どんな理由であっても、私はAさんについていきますよ」
『…私と一緒に、ここから逃げて欲しい』
月が、揺れた。
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ぱずる(プロフ) - 感動してボロボロ泣きましたwなんと言えばいいのか分かりませんが、とても素敵なお話でした。面白かったです!! (2021年4月30日 1時) (
レス) id: 6fda5d1ca9 (このIDを非表示/違反報告)
そういろね(プロフ) - みみみさん» コメントありがとうございます。返信が遅くなってしまい申し訳ありません！書き終えてから少し走り気味だったかもと反省していた部分があったので、好きという言葉をいただけて本当に嬉しいです！他の作品もよろしければ見てやってください。 (2020年3月6日 0時) (レス) id: 3979da825c (このIDを非表示/違反報告)
そういろね(プロフ) - わたあめさん» コメントありがとうございます。返事が遅くなってしまい申し訳ありません！走りが気になってしまった部分もあり少し心残りのある作品だったので、そう言っていただけると嬉しいです！他の作品もよろしければ見てやってください。 (2020年3月6日 0時) (レス) id: 3979da825c (このIDを非表示/違反報告)
みみみ - やっと見つけました！ 本当に好きです！ (2020年2月16日 17時) (レス) id: a3e96579f7 (このIDを非表示/違反報告)
わたあめ - 初コメ失礼します…？感想っていうか…この話本当に好きです。他のどんな話よりも。本当に。作者さんに尊敬の花束を。 わたあめ(語彙力溶けた) (2019年7月31日 11時) (レス) id: 058dc021e0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：そういろね | 作成日時：2019年4月9日 19時
