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「泣かんとって、俺まで悲しくなるやん」


鬱はその綺麗な指で私の涙を拭った。
それでも、溢れて、結局意味がないのだ。
鬱の苦しそうな顔に、胸が酷く痛んで、さらに涙が溢れて、自身の手で顔を覆った。


『っ、ごめん…おかし、いなぁ…な、んで…泣いてんねやろ…』

「…なあ、A」

『…っ、や、みんとって…』

「目逸らさんで、聞いて」


涙でベチャベチャの手を握られて、顔を隠せず目を逸らせば、真剣な声でそう言われた。
きっと、酷く間抜けな顔をしている。
こんな顔、見られたかったわけじゃない。
こんな気持ちを、彼に見せたかったわけじゃないのに。


「今の俺じゃ、全然頼りないと思うねん、まだまともに稼げてへんし、Aのこと支えきれんかもしれんねん」

『…』

「でも、A以外をほんまに好きにはなれんねん、Aしかおらんねん」

『…ほんまに』

「ほんま、やから、ちゃんと大人になって、Aが不安なんかにならへんくらい、ちゃんと愛しとるってこと証明するから」

『…』


鬱は、もう一度、私の目元を拭うように触れて、愛おしそうな瞳で、笑顔で私にキスをしてくれた。
その先の言葉に、期待してもええかな。
愛されてるって、この先もずっと、離れることないって、自惚れてもええかな。


「やから、俺と、結婚してくれへんかな」


身体の水分が無くなってしまうかも。
そんなくだらない心配をしてしまうほど、止めどなく涙が零れ落ちて。
そんな私を見てまた鬱が笑うから。
思いっきり、彼に抱きついて、首に腕を回して、引き寄せた。


『…して欲しいこと、あんねんけど』


答えは、まだ先まで大事にとっておくから。
きっとその時には、もう、泣いてなんかいないから。
絶対に、笑って、元気よく、喜んでって言うから。
そんで、綺麗な綺麗な姿で、もう一度惚れ直させてやるから。
今は、泣き虫な私の目が腫れてしまわぬように、我が儘を言わせてよ。


「何して欲しい?」


だから鬱も、その時が来たら、綺麗なリングを見せて、もう一度その言葉を言って。


『アイス買って』


甘いそれは、きっと、私の涙すら溶かしてしまうから。

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作者名:そういろね | 作成日時:2019年4月4日 4時

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