93. ページ6
いざ
勉学というジャンルそのものに苦手意識があるだけで、存外、物覚えも良いし好奇心も旺盛。
書き物と本を定期的に与えれば見る見ると色んな言語を吸い込んで見せていた。
「でも俺、本当にそんなに頭良くないのよ。
メンバーの阿部ちゃんの方がよっぽど」
「……これだけ読み書きできるようになっておいて言われても……」
「だよねえ」
多少の拙さが見える字を書きながら深澤は笑う。
教科書は屋敷の本と、そしてセシル自身の脳。
深澤が真っ先に求めたのは公用語。それをマスターしたら、次はセシルの国における一般常識。
そこからセシルの国の言葉。後は気になった本に登場する国の言語や知識だった。
「――よし」
ぴちゃ、とペン先を戻しながら満足げに頷く。
ちらりと覗き込めばなんと、今の今まで必死にまとめていたのは月についてだったらしい。
無月の横に彼らの世界での数字(算用数字、と言われるのは後々になって知った)での１。
そして最後の集月に至るまでに丁寧に12の数字が割り当てられている。
紫月、10月、と書かれた隣にはセシルの名。それとセシルの似顔絵、なのであろう、顔。
「……」
それはまとめるほどの事なのだろうか。
けれども当人は至極満足そうで。
「でも、やっぱりセシル達にとって月って大事なんだね」
「現代となっては眉唾物の言い伝えの方がよく耳にするがな」
「眉唾物の言い伝え？」
深澤がかすかに首をひねりながら目を細める。何かが気になった時の仕草だと、分かってきた。
しかしセシルは自分で出しておいて苦々しく口元を覆う。
「例えば緑月の生まれは秀才だが奇人変人、紫月生まれは天才肌だが幼稚、って偏見とかな」
「お、おお……ほぼ誕生日占いじゃん。血液型ならよく聞くけど」
ちなみにセシル、紫月生まれのAB型であった。なお教えたら深澤に「分らんでもない」と言われた。
対する深澤はこちらで言うところの赤月生まれのＢ型。
占いに言わせれば「優しく慈悲的で母性が強い」らしい。確かに分らんでもなかった。
それからも少し、会話を繰り返す。
ピイイイィィィィ――――。
ちかりと一瞬、脳が瞬いた。反射的に深澤の耳を覆う。
きっとお礼なのだろう、何かを口にする深澤に意識の端で答えながら眩む頭を振った。
自分の魔獣であるはずなのに、セシルの身体すら耐えられなくなりつつある。
(まずい)
鮮やかな紫の羽に目の奥が痛んだ。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 296人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
如月千羽(プロフ) - みやさん» コメントありがとうございます。お待たせしてしまいましたが、更新は続けるつもりなので宜しくお願いします (8月25日 21時) (
レス) id: 94f81c196d (このIDを非表示/違反報告)
みや(プロフ) - 続きお待ちしてました…！この作品好きなので何度も読み返してます^^ (8月24日 19時) (レス) @page9 id: cdc5c5cb1f (このIDを非表示/違反報告)
如月千羽(プロフ) - サクラさん» ありがとうございます。今後もよろしくお願いいたします！ (7月20日 8時) (レス) id: 94f81c196d (このIDを非表示/違反報告)
サクラ(プロフ) - 続編おめでとうございます！！！ (7月20日 0時) (レス) id: a6caf0043b (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：如月千羽 | 作成日時：2023年7月19日 22時
