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「やったー！ こんな早く用意してくれるって思ってなかったわ、ありがと！」
わあっと声をあげ食事もそっちのけで飛びつく男を横目に、せまっ苦しい机に何とか食事を並べていく。
配置を少しでも間違えると途端に根こそぎ倒れていく机は片手間に扱えるものではない。
一方で男の方は本に触れるということもなく、ただ表紙を遠目に眺めるように顔を揺らしていた。
さながら目の前でたっぷりのチーズを落とされるのを待っている子供のようだ。
神経を集結させ何とか最後の一皿を置いてみせた時、ふと気になっていたことが頭に浮かぶ。
「アンタ、それ読めんの」
「んー、俺もそれ、頼んだ後で思ったけど……
まあ読めないなら読めないで、セシルが教えてくれるでしょ？」
「なんだそれ」
相手の善意をまるで疑っていない。
酸いも甘いも嚙み分けているのだろうが、それでも性善説で生きているような節があった。
ちらりとセシルの顔を見上げ、いそいそと一番上の本へと手を伸ばす。
妙に恭しい手つきで慎重に持ち上げられる。
そろりと眼前の高さに掲げられた文字を茶黒い瞳がなぞった。
「えーと……か、『神』……『と、９つ、の』……『い』？」
さながら文字を憶えてすぐの幼子のようだ。
なんとも微妙な結果に雌雄眼がセシルの瞳をとらえる。
きゅるっと瞳が回る。へにゃんっと揺れた口角でもって悪戯っ子のような表情だ。
「……ま、まあ……？
多少学べば読み書きがすぐにできる、し、読み仮名があれば読めはするってことでひとつ……」
「誰が教えて誰がルビを振るんだ、それ」
聞くまでもないが思わず問い掛ける。
ぱちり、ぱちり、と瞬いた。そのまま傾げられた顔が笑む。
「……、……えっへえ」
相も変わらず己の魅力をよく理解したような仕草だ。
セシルは自分の額に手を当て飛び出しかけた溜息を飲み込む。
どうにもセシルの仕事が増えた、ようだった。
余談だがこの時になって初めて、セシルはこの男の名が「深澤辰哉」であり尚且つ三番目の姉と同い年であることを知った。
(さすがに自分と同い年かそれよりも下だと思っていたことは言わなかった。)
ついでに彼はセシルの事を25歳だと思っていたらしい。心外だった。
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如月千羽(プロフ) - みやさん» コメントありがとうございます。お待たせしてしまいましたが、更新は続けるつもりなので宜しくお願いします (8月25日 21時) (
レス) id: 94f81c196d (このIDを非表示/違反報告)
みや(プロフ) - 続きお待ちしてました…！この作品好きなので何度も読み返してます^^ (8月24日 19時) (レス) @page9 id: cdc5c5cb1f (このIDを非表示/違反報告)
如月千羽(プロフ) - サクラさん» ありがとうございます。今後もよろしくお願いいたします！ (7月20日 8時) (レス) id: 94f81c196d (このIDを非表示/違反報告)
サクラ(プロフ) - 続編おめでとうございます！！！ (7月20日 0時) (レス) id: a6caf0043b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：如月千羽 | 作成日時：2023年7月19日 22時
