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――弾けた。
阿部の頭に浮かんだのはそんな月並みな一言だった。
それでも確かに。セシルを襲っていた腕が、目黒と向井に届くはずだった毒牙が、弾け飛んだのだ。
水風船のように弾けて飛び散り、けれどもそのどれもがあたりを汚すよりも先、また水風船のように弾ける。
「ああ゛あ゛あ゛あァァアァ!!」
消えた片腕を押さえ絶叫するベイオウーフはダラダラと滴る己の血に錯乱したようだった。
地に転がったセシルも己の右目を押さえながら呆然としており、何が起きたのか理解していないように見える。
二人ではない。のだとしたら、誰なのか。
ならばメンバーかと視線を巡らせ、ひとり様子のおかしい男の姿に気が付いた。
「ふっか……？」
先の一瞬まで怯えたように膝をついていたはずの深澤の上半身が、手を地に着くこともなく奇妙な前傾姿勢で止まっていた。
頭は鎖骨にめり込むほどに沈んでおり、伸びたままの髪も相まって顔をうかがい知ることができない。
顔の角度だけで無理に悟るのなら、その膝に前足をついたアリスを一心不乱に見つめているだけのようにも見える。
ただ、深澤の様子がおかしいのは確かだった。
ちかちかとダイヤモンドダストにも似た光が周囲に漂い始める。
深澤を中心に。外へ、外へと。
阿部や岩本の周囲でぐるりと濃度を増したそれは、けれど留まることもなく更に更にと広がり続ける。
「な、んだこれ……」
困惑する岩本の横で阿部も止まりかけた思考を必死に巡らせる。
阿部達はこの三人の明確な関係性が分からない。誰が敵で、誰が味方なのかすらも分からない。
なにが事の引き金となって、それに対し何が共鳴を起こしているのかも、何もかもが分からなかった。
「きゅう。きゅう」
「ふた、つ？」
「きゅううううう、きゅううううう」
「そんなの、おれは……」
「きゅうう」
「きゅうう」
「きゅう」
「きゅう」
「あとは、もう」
まるで会話をしているようだった。
「思うがままに」
ふらりと深澤の顔が上がる。
閉じられた瞳からきらきらと砂のように光が溢れている。
総てが、全て、絵画のようだった。
ゆらりと立ち上がる痩身も。紡がれるキャラメルボイスも。
そのすべてが、荘厳な美術館で堂々と中央に鎮座する絵画のようだったのだ。
「俺は絶対に赦さない」
その声だけが酷く重く響いていた。
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如月千羽(プロフ) - みやさん» コメントありがとうございます。お待たせしてしまいましたが、更新は続けるつもりなので宜しくお願いします (8月25日 21時) (
レス) id: 94f81c196d (このIDを非表示/違反報告)
みや(プロフ) - 続きお待ちしてました…！この作品好きなので何度も読み返してます^^ (8月24日 19時) (レス) @page9 id: cdc5c5cb1f (このIDを非表示/違反報告)
如月千羽(プロフ) - サクラさん» ありがとうございます。今後もよろしくお願いいたします！ (7月20日 8時) (レス) id: 94f81c196d (このIDを非表示/違反報告)
サクラ(プロフ) - 続編おめでとうございます！！！ (7月20日 0時) (レス) id: a6caf0043b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：如月千羽 | 作成日時：2023年7月19日 22時
