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90. ページ3

そんなわけでセシルの付け焼き刃の癒療生活が幕を開けた。
癒療庫を漁り包帯になり得そうなものをかき集め、本を脇に見様見真似で巻き付けていく。
精度や正しさなど知ったこっちゃないが、とりあえず日常生活に支障をきたさない状況にまで持っていくことはできた。


男は万華鏡のような人物だった。
少なくとも予想は出来るが予測が付かないという点においては、セシルにとって正しく万華鏡であった。

起き上がれる程度に回復した頃には、すっかり初めて目覚めた時の記憶は掠れていた。
そして彼の部屋に訪れる者も、ベイオウーフの命令のせいか、セシルの一人こっきりになっている。


「――《プラーガ・サナーレ》」


癒療を任されて暫く経った頃。初めて彼の意識がしっかりした状態で魔導を使った時のことだった。
男の瞳がきらきらと輝く。うわあ、と小さな子のように感歎(かんたん)の声が上がった。


「すごい、魔法だ」
「魔導だ」
「まどー?」


きゅるっと首を傾げる仕草は厭らしさもなく可愛らしい。
ひとつひとつの動作が、役者や踊り子のような一般市民に見られるような洗練さを持っていた。

魔法と魔導の違いを噛み砕いて説明してみせれば、瞳の輝きが強まる。


「魔法も魔導も俺の世界になかったよ。
 すげえ、かっこいい!」
「……魔導がないのにどうやって生きていくんだ」


素朴な問いに男は笑い声をあげた。
通りの良い声は大きさの割にうるさくはない。それでもセシルが驚くような跳ねようだった。


「なんて言えばいいのかなあ。
 俺の世界は科学が発展してるんだ。昔は魔法とか錬金術とかもあったって言われてたけど……
 今じゃあ全部、科学で証明できちゃって迷信だったって言われてるんだ」


でも俺あんまし勉強が得意じゃなかったからさあ。
男は楽し気に笑い身を乗り出した。

新しいおもちゃを買い与えられた子供のように頬を上気させ、ふにゃふにゃと緩んだ口元は何から話すか迷っているようにも見える。


「あのさあ……あのさあ、セシル」
「……なんだ」
「それってさ、俺も使えたりする?」


え、と瞬くセシルに男は「無理ならば諦める」と慌てたように口にする。
一方のセシルは少し考え、ゆっくりと首を振ってやった。


「試してみるだけ、価値はあるんじゃないか」
「ほんと!」


やったあ、と右手を挙げて喜ぶ男に笑う。
見ていて飽きない男だった。

ところが魔導が放つ魔素によって男が再び寝込んでしまい、その話は御流れとなった。

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設定タグ:SnowMan , トリップ , 魔法   
作品ジャンル:ファンタジー
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如月千羽(プロフ) - みやさん» コメントありがとうございます。お待たせしてしまいましたが、更新は続けるつもりなので宜しくお願いします (8月25日 21時) (レス) id: 94f81c196d (このIDを非表示/違反報告)
みや(プロフ) - 続きお待ちしてました…!この作品好きなので何度も読み返してます^^ (8月24日 19時) (レス) @page9 id: cdc5c5cb1f (このIDを非表示/違反報告)
如月千羽(プロフ) - サクラさん» ありがとうございます。今後もよろしくお願いいたします! (7月20日 8時) (レス) id: 94f81c196d (このIDを非表示/違反報告)
サクラ(プロフ) - 続編おめでとうございます!!! (7月20日 0時) (レス) id: a6caf0043b (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:如月千羽 | 作成日時:2023年7月19日 22時

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