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「おっ……もたい!」
「いいいきったねえ! きったねえコイツ!!」
「押し戻すよ!」
場違いに賑やかな声が割り込んだ。
腰を落とした三人の男がそれぞれに武器を構え、ベイオウーフの巨体をせき止めている。
――誰と誰と誰。
怒涛の展開についていけない脳はぽっかりと気の抜けた言葉を浮かべる。
両サイドの二人はセシルよりも少しばかり低いが、真ん中の青年はかなり背が高い。
それこそ正に対峙しているベイオウーフに一人迫っている勢いだ。
脳内に大量に飛び交うクエスチョンマーク。
貧血と疲労のせいか真面に回らない頭は疑問ばかりを次々と浮かべ、一向にそれらの答えを見つけられないでいた。
へなへなと座り込みながらも三人の背を見上げ、浅くなった呼吸を力なく整えた。
「――セシル!」
混乱し続ける脳にそのたった一声が届いた。
一様に(というと語弊はあるが)背の高い男たち。皆が皆、痛々し気な表情でセシルを見ている。
その中でも一際に体躯のいい男の背からしっかと知る顔が覗く。
左右に形の違う瞳が震えている。その瞳を見たセシルの眼にもまた、じわりじわりと涙が溜まる。
「……して」
負ぶっていた男の背から飛び降りるように落ちた彼が――深澤が必死に屍の間を這い寄ってくる。
彼だってもう体力がろくに残っていないのだろう。
だというのに必死なままに伸ばされた成人男性にしては小さな手が、セシルの頬に添えられて、なぜて。
(どうして)
どうしてこんなにも酷く耳鳴る中で、馬鹿みたいに澄んで聞こえる声が滲んで。
「何してんの、ねえ!?
こんなになって……こんな、無茶ばっかりして……!」
どうして、たどたどしい呪文を繰り返して。セシルの肩を埋めようとして。
「ふっか達を守れ!」
「大丈夫、動ける!?」
「な、治す! 治すから、ちょっとだけ頑張って!
お願い!!」
どうして、こちらよりもずっと真剣になって。
「ちょ……ふっか顔色悪いって! 無茶だよ!」
どうして、いつだって真っすぐにこちらの顔を見つめて。
「ッもう大丈夫、だから。大丈夫だから、セシル。
俺も……みんなも、居るから」
どうしてアンタはいつも、最期の一息になって現れるのだ。
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如月千羽(プロフ) - みやさん» コメントありがとうございます。お待たせしてしまいましたが、更新は続けるつもりなので宜しくお願いします (8月25日 21時) (レス) id: 94f81c196d (このIDを非表示/違反報告)
みや(プロフ) - 続きお待ちしてました…!この作品好きなので何度も読み返してます^^ (8月24日 19時) (レス) @page9 id: cdc5c5cb1f (このIDを非表示/違反報告)
如月千羽(プロフ) - サクラさん» ありがとうございます。今後もよろしくお願いいたします! (7月20日 8時) (レス) id: 94f81c196d (このIDを非表示/違反報告)
サクラ(プロフ) - 続編おめでとうございます!!! (7月20日 0時) (レス) id: a6caf0043b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:如月千羽 | 作成日時:2023年7月19日 22時