103. ページ16
指先がかじかむ。
実際には冷えてなどいないのだから、かじかむという表現は違っているが。
それでも思うように動かなくなりつつある手は深澤が必死になって治そうとしていた、正しくあの状態に戻っていた。
理由は分かっていた。いくつもある。
少しでも深澤の体調を戻そうと栄養になりえるものを回していたこと。
休息らしい休息をろくにとっていない身体。
どれもこれもがあれっぽっちの癒しで足りるわけがなかったのだ。
(ああ、もう)
嫌になどなりはしないけれど。それでも情けなくって仕方がない。
この様であっても膝に土をつけていないのは、意地の一言だ。
――彼らを逃がしきれたのだと確信を持てるまでは倒れてたまるか。
新たな矢をつがえ、次の獲物を狙う。
指どころか腕すらも震え始め上手く定めることができないが、それでも足止めには十二分だと知っている。
キリ、と慣れた音が耳をかすめた。ここだ、と指を離そうした。
銃声が鳴ったのは、正にその瞬間であった。
「――！」
手から滑り落ちた指が音を立てた。引っかかったように放たれた矢は辛うじて魔物の頭蓋を穿った。
何が起きたのかと視線を追うよりも早く、ルイの紫の羽が視界を覆う。
続くように鳴り響いた銃声は羽に遮られ、代わるように威嚇のままの声ががなり立つ。
遅れてやってきた痛みが、そこから滴る血が、地に転がる弓に羽根に降り注ぐ。
「ッ、ベイオウーフ……」
「ざけんなァ!!」
ヒステリーに叫ぶ瞳は遂に紫を失っていた。
それ以上に濁りを加速させる結膜が、ひび割れゆく肌が、揺らぎたつ髪が、大男の異常を知らせる。
「アンタ……それ……」
ぎょろりとした眼球がセシルを捉える。
玩具のように握られた銃が粘土のように潰された。
踏み出した足が地を削る。一歩一歩と進む度、かつて無かったほどの地揺れが起きる。
「なぜ逃がした！」
声がひしゃげている。
深澤とセシルが散々と苦しめられてきた、魔物らと同じノイズが入り乱れる。
地面が一入に抉れる。
肉弾が先ほどの銃弾にも迫る速度で眼前に広がった。
ねばついた唾液の繋がった牙がルイの更に向こうに居るセシルを狙い――。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 296人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
如月千羽(プロフ) - みやさん» コメントありがとうございます。お待たせしてしまいましたが、更新は続けるつもりなので宜しくお願いします (8月25日 21時) (
レス) id: 94f81c196d (このIDを非表示/違反報告)
みや(プロフ) - 続きお待ちしてました…！この作品好きなので何度も読み返してます^^ (8月24日 19時) (レス) @page9 id: cdc5c5cb1f (このIDを非表示/違反報告)
如月千羽(プロフ) - サクラさん» ありがとうございます。今後もよろしくお願いいたします！ (7月20日 8時) (レス) id: 94f81c196d (このIDを非表示/違反報告)
サクラ(プロフ) - 続編おめでとうございます！！！ (7月20日 0時) (レス) id: a6caf0043b (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：如月千羽 | 作成日時：2023年7月19日 22時
