100.星天の霹靂 ページ13
「おろして！ ねえ、降ろせって！」
岩本の腕の中で深澤は何度目となく叫んでいた。
最後の記憶よりも何故かより屈強になっている岩本と、対象的に明らかに筋肉も脂肪も落ちて力のなくなった深澤。
そんな状態での抵抗など火を見るよりも明らかだった。
少し暴れるだけでも息の上がる深澤に悲痛そうな顔をした岩本は、それでも黙って深澤の体を抱え直す。
「っの、」
「ふっか……」
いよいよ我慢がならず声を荒げようとした時、見計らったように岩本の肩向こうから阿部が声をかけてきた。
気遣わしげに茶色い瞳を揺らす彼は言葉をひたすらに選んでいるようだった。
「阿部ちゃん、戻らして！ セシルがっ……」
「そのセシルが逃げろって言ったんだよ」
ぐ、と喉が詰まる。それが理解できないほど馬鹿ではない。
セシルは自分を助けるために戻ってきた。そして自分を逃がすために残ったのだ。
逃げられるのなら、とうに、深澤を抱えて脱してしまう。
……他でもなく深澤がそれを望む、から。それだけであっさりと自らの命を投げ出しもすくい上げもしてしまう。
わかっている。彼がそういう人間であることを、深澤はよくわかっていた。
(でも、)
それでも納得できないのだ。
見間違いなどではないと、深澤が一番わかっている。
あの日も、昨夜も。あの瞬間も。
笑うセシルは確かに絶望していた。何かに耐えていた。何かが壊れていた。
──そしてきっと、壊したのは自分だったのだ。
「ごめん。照、阿部ちゃん」
岩本の胸を押し落下するように飛び降りる。
反射的に伸ばされた阿部の手からも身をよじり抜け、半歩下がる。
「俺……おれ、やっぱりセシルを置いていけない！」
言い切るよりも早く踵を返す。
背後で阿部が名を呼んだような気がしたが、それでも止まろうなどとは思わなかった。
正しい道など産まれて初めてこの地を踏みしめた深澤には分からない。
けれど戻らねばとその一心だけが、こちらだと叫ぶから。
ただそのままに足を突き出す。
(セシル……！)
呼吸はとうに上がりきって足も根本からもつれそうだ。
足の動かし方を意識しなければ走ることだってままならない。
落枝が足を傷付ける。爪の間に石が入り込む。
消え始めていた筈の耳鳴りも頭痛も増していき、今すぐにでも逃げ出したくなってしまう。
それでも、それでも。
足を止めることなど、できやしなかった。
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如月千羽(プロフ) - みやさん» コメントありがとうございます。お待たせしてしまいましたが、更新は続けるつもりなので宜しくお願いします (8月25日 21時) (
レス) id: 94f81c196d (このIDを非表示/違反報告)
みや(プロフ) - 続きお待ちしてました…！この作品好きなので何度も読み返してます^^ (8月24日 19時) (レス) @page9 id: cdc5c5cb1f (このIDを非表示/違反報告)
如月千羽(プロフ) - サクラさん» ありがとうございます。今後もよろしくお願いいたします！ (7月20日 8時) (レス) id: 94f81c196d (このIDを非表示/違反報告)
サクラ(プロフ) - 続編おめでとうございます！！！ (7月20日 0時) (レス) id: a6caf0043b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：如月千羽 | 作成日時：2023年7月19日 22時
