88.そうして壊れたもの ページ1
結果的にセシルが喚び寄せてしまった男は、早々に適当な部屋に放り込まれた。
最初の数日は昏睡と昏迷の間を彷徨っており、セシルの出来ることと言えば左肩を一先ずの形で繋ぎとめるぐらいのもの。
４日程が経って傾眠レベルまで回復した男はそこで漸く意思疎通ができるようになった。
「起きたか」
そっと声をかける。ぼんやりと空を見上げていた視線が緩慢な動作でセシルを見上げた。
あんなにも綺麗だった紫の宝石眼はすっかり消え失せ、茶けた黒い瞳が覗いている。
「動かない方がいい。……左肩が千切れかかってる」
「だ、れ……？」
まるでセシルと同じ言葉を並べるのだから拍子抜けしてしまった。
優しく柔らかな響きはそのままだったが、それでも掠れた音は弱々しい。
あの神々しさとも言える落ち着きはすっかり消え去っており、ぼんやりと揺れる視線は警戒態勢を崩せない小動物のように見える。
全くの別人のようだった。こんなにもか弱そうな人ではなかった、はずだ。
「……セシルだ。後ろのは屋敷の主、と、使用人」
どの言葉を選ぶのか悩み、結局は大人しく名乗ることを選んだ。
セシル、と名前を反芻される。何度か繰り返した後、気だるげに瞬いた。
「ここ、は……？」
「……アンタを召喚した男の屋敷だ」
誤魔化すことは早々に諦め、あっさりと白状する。
男の唇が何度か動き、そろりと部屋を改めるように見渡した。
彼は起きているだけでも億劫な様だった。
はふはふと時おり流れ出る呼気は見ているだけでも熱々しい。
瞼が瞳を覆っては抗うように開き、それでも視線が端から端に到達する頃にはまた瞼は半分ほどを覆うように下がっていく。
今にも眠りに落ちてしまいそうだ。
「ひ、か……べちゃ……んな、は……？」
「え？」
小さく途切れ途切れな声に耳を寄せる。耳に触れる吐息はやはり熱い。
男は重たそうに傾いで口を寄せてくれた。
「みんな、は……？
ひかる、と、か……あべちゃんたち……ぶじ……？」
仲間の名前、なのだろう。ひゅっと己の喉が鳴ったのが分かった。
「喚ばれたのはアンタだけだ。他の者は、居ない」
「……そ、か」
ふへ、と笑い声が添えられた。
驚いて顔を離す。彼は確かに幼げに笑っていた。
「よか、た」
それだけを言い残し、瞼が完全に落ちた。
残されたセシルはそんな男の寝顔を見詰め、ただ茫然とすることしかできなかった。
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如月千羽(プロフ) - みやさん» コメントありがとうございます。お待たせしてしまいましたが、更新は続けるつもりなので宜しくお願いします (8月25日 21時) (
レス) id: 94f81c196d (このIDを非表示/違反報告)
みや(プロフ) - 続きお待ちしてました…！この作品好きなので何度も読み返してます^^ (8月24日 19時) (レス) @page9 id: cdc5c5cb1f (このIDを非表示/違反報告)
如月千羽(プロフ) - サクラさん» ありがとうございます。今後もよろしくお願いいたします！ (7月20日 8時) (レス) id: 94f81c196d (このIDを非表示/違反報告)
サクラ(プロフ) - 続編おめでとうございます！！！ (7月20日 0時) (レス) id: a6caf0043b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：如月千羽 | 作成日時：2023年7月19日 22時
