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くすんくすんと鼻をすする向井は何度も「生きていてよかった」と繰り返していた。
繊細な彼のことだ、深澤のことも含めかなり追い詰められていたのだろう。
知らぬ土地でメンバーが半数も居ない状況がどんなに怖いのか、そんなこと阿部もよく知っている。
渡辺の胸に縋りつく背を撫ぜてなるたけ優しさを含ませた声をかけた。
「康二たちも無事でよかった。四人とも居るんだよね？」
「うん……うん、居るよぉ。てる兄とさっくんはアリスと一緒に出掛けとるけどぉ……」
「アリス？」
宮舘の問いかけに顔をあげた向井の顔はべしょべしょだった。
ひとつふたつと頷いた向井は宮舘に顔を拭われながらウサギとつぶやく。
「ウサギ？ ってあの紫の？」
「そお。あん子も俺らと一緒に来とってなあ、さっくんが『名前がないのは不便だろ』って。
こっちに来たキッカケみたいやから、不思議の国のアリスからとってアリスなんやって」
なるほど……？ と納得したような宮舘。
ラウールに腕を引かれ立ち上がった向井はそこで漸く、四人以外にも人影があることに気が付いたようだった。
ぱちり、とアルトと目が合った彼の背がぴゃっと跳ね、凄まじいスピードでラウールの背後に隠れる。
気が抜けたからなのか人見知りが加速しているように思える。
「だ、誰っ……!?」
「大丈夫だよ康二くん。この人、この国の王子様だから」
「王子!?」
素っ頓狂な向井の声が思いのほか響く。
その声がきっかけか元々呼ばれていたのか。例の扉が開き、今度は恰幅の良い女性と目黒が同時に現れた。
「どうしたんだい、コージ。
……あらまあ、アルクトゥールス王子じゃないかい！」
――凄い、王子相手にタメ口……。
恐らく女将なのであろう女性が50代半ばほどに見える。
平均よりも小柄よりの背丈ではあるものの、その体格の良さにしゃんと伸ばされた背筋やはつらつとした笑顔のせいか、存在感は十二分にあった。迫力とも言う。
「あ、阿部ちゃん」
テンポが遅れながらも目黒もようやく状況を理解したようだった。
ほ、と小さく呼吸を落とした長身もこちらへと駆け寄ってくる。
「なんだい、コージ達の言っていたお仲間さんは王子と一緒に居たのかい」
「まあな。……アーシャ、こいつらを借りてもいいか？」
「夜なら構わないよ。
でも、それまでは四人にもみっちり手伝ってもらうからね」
ひらと手を振った女将は豪快に笑ってみせた。
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春原明香(プロフ) - 沙耶さん» コメントありがとうございます。オリジナルキャラクターも多い作品とはなりますが、最後まで楽しんでいただけると幸いです。 (5月20日 22時) (
レス) id: cf1a8a04fc (このIDを非表示/違反報告)
沙耶 - 続き待ってます！ (5月20日 17時) (レス) id: 6a6eda54e2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：如月千羽 | 作成日時：2023年5月5日 20時
