36.四人と四人 ページ36
渡辺がソファに溶けている。
彼にしては珍しくべっちゃりとうつぶせになり、ぴくりともする様子がない。
「翔太、大丈夫?」
ぴくりともしない痩身の背を撫でさすり問い掛ける。
結局人を探すのは地の利も権力もあるアルトに頼むしかなく、その間に阿部達ができることと言えばひたすらトレーニングを重ねることだった。
四人の魔法に関しては教えられる人間が居ないため一度捨て置き、一先ずとしてある程度の武器と魔導を重点的にテディにしごかれる日々を送っている。
「……駄目だぁ、完全にぽっきりしてる」
「なら放っておいて。阿部とラウールは大丈夫?」
「んー……何とか」
「僕も」
相変わらずけろりとしているのは宮舘だった。
ラウールも疲労度は阿部よりも高いのであろうが、それでも渡辺ほどの潰れようでもない。
さすがに殺陣と実践とでは大きな違いこそあったが、それでも武器を握ったことがあるというのは大きなアドバンテージとなっていた。
少なくともどう動かせば己にどんな負荷がかかるのかを把握しているのもあり、筋肉痛に追われることこそあったがそれなりに四人とも習得しつつある。
問題は魔導の方だ。
魔導は何であれ媒介とするものが必要となる。魔力のまとまった石を用いる方法もあるが、それよりも効率も汎用性も高いのは呪文を唱えること。
そして呪文というのが、旧神皇世代よりも更に昔の特殊言語を唱える、というものだった。
こうなると発生するのが「単純に新しい言語を習得しなければならない」という酷く原始的な問題だ。
そう、つまり馬鹿には無理があるのである。
言わずもがな秀才である阿部と、勉学をそれなりに得意とするラウールは程度に差はあれど概ね恙なく習得しつつあった。
その一方でゆり組と通称される二人は分かりやすく遅れている。
「これ、もう諦めて石とかスクロール使いますう?」
とは教えることを放棄したテディのボヤキである。
そう言われて火が付くのは負けず嫌いの根性によるもの。
気合にも近い勢いで何とか初歩の魔導を覚えたのが昨日のことであった。
そして今、渡辺は第二の壁にとんでもないスピードで体当たりした形になっていた。
「しょうがないよ翔太。こういうのはセリフみたいに覚えるしかないって」
寧ろ同じこけ方をしたはずの宮舘がこんなにもけろっとしている方が阿部には不思議ではならないのだが。
ぽんぽんと慰めるように渡辺の肩を叩く宮館の姿に、知らず阿部は胸の前で手を組んだ。
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春原明香(プロフ) - 沙耶さん» コメントありがとうございます。オリジナルキャラクターも多い作品とはなりますが、最後まで楽しんでいただけると幸いです。 (5月20日 22時) (レス) id: cf1a8a04fc (このIDを非表示/違反報告)
沙耶 - 続き待ってます! (5月20日 17時) (レス) id: 6a6eda54e2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:如月千羽 | 作成日時:2023年5月5日 20時