26. ページ26
「ちょ……ちょっと待ってアルト！」
退室後、ずんずんと突き進むアルトを慌てた阿部が呼び止める。
振り向いたアルトは気だるげに瞬いており、先の間でのかしこまった空気も霧散していた。
「なんだ？」
「なんだ、じゃなくってさ……
本当に俺達で大丈夫なの？ 俺達、元の世界で殺陣はやってたけど本物の剣術なんてできないよ。
そうじゃなくても政治的にもさ、王族の一人が消えたなんて王位争いの可能性とか……」
「ああ、後者に関しては気にすんな」
ひらりと手を振るアルトのフードから三度テディが現れた。
こっちはこっちで逆に恐ろしいほどに同じテンションが続いている。
「ルザライトは女王制なので、そもそも男であるカエキリアスに王位継承権はないんですよお」
「そうでなくともアイツは姉弟の中で最も下……
仮に男にも継承権が与えられていたとしても、その順位は一番低いから意味がねえんだよ」
最もと言えば最もだった。
おそらくこの場に居る面々はその女王とその兄弟姉妹のみで揃えられている。
基本的に王位継承権と言えば王の系譜を一番上からまっすぐ下に降りるようにして継承権を与え、
直系が居なくなればそのすぐ下の兄弟からまたまっすぐ下へ、を繰り返す。
あの女王やその兄弟に子どもが居るのかは定かではないが、
それでも上に七人も居ればそれだけ順位も低くなる。
――どう転んでも末っ子の時点で継承権は最下位に近い。
そうなると、他であり得る理由はひとつしか思いつかなかった。
「そのカエキリアスって人は、何か、別の力を持ってる……？」
阿部のつぶやきに瞬いたのはアルトだった。
「お前、賢いんだな」
「え？」
「誘拐以外の可能性を考えてねえだろ」
「そりゃあ、だって、救出なんて単語も出てたし……」
男性はあの時確かに「末弟を救出」と口にしていた。
連れ戻す、や、見つける、であればまだ家出の可能性もあっただろう。
だが、救出、だけを指定しているのならばそれは、そもそも彼が今現在どこに居るのかも把握しているということを意味していた。
だからこその阿部の抗議である。
「さっきも言ったけど、俺達、演技ならともかく実践なんてできないよ」
「それについてもテディが言っていただろ。大丈夫って」
その「大丈夫」の根拠が欲しいのだが、アルトとテディは黙ってついてこいの一点張りだ。
なおも言葉を重ねようとしたが、宮舘に肩を叩かれ静かに頭を振られてしまい、がっくりとうなだれるのだった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 150人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
春原明香(プロフ) - 沙耶さん» コメントありがとうございます。オリジナルキャラクターも多い作品とはなりますが、最後まで楽しんでいただけると幸いです。 (5月20日 22時) (
レス) id: cf1a8a04fc (このIDを非表示/違反報告)
沙耶 - 続き待ってます！ (5月20日 17時) (レス) id: 6a6eda54e2 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：如月千羽 | 作成日時：2023年5月5日 20時
