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今までの己の所業を思い出し唸る深澤に対し、とうのセシルは既にワゴンに空き皿を下げ始めている。
「で？ 何でアンタはあんな大怪我してたんだ」
「それが……何かに襲われたのは分かるんだけど」
眉尻を下げた深澤は困惑していた。
「覚えていないのか」
「まさか。……でも、あんなの知らな――」
ただ、あの日は何となく外の空気を吸いたくて買い出しを口実に夜の田舎道を歩いていたのだ。
怖くないわけではなかったけれど、かといって疲れているメンバーを誘うのは申し訳ない気がして一人で出たことは覚えている。
それがどうしたのか。紫色の光が明滅と思えば、月に照らされたおぞましい生物と相対していた。
逃げなければ、と脳が悲鳴を上げると同時に体に衝撃が走る。
肩があぶられたように熱くて痛くって、首も粘度のある水でぬらされたような感覚が伝い不愉快で。
そうして気が付いた時には地面に転がり、ぬらぬらと光を跳ね返す熊のような何かに見下ろされていた。
きちんとした悲鳴を上げることなど、あの状況の深澤には無理なことだった。
恐怖以上に痛みと酷い倦怠感で動けない自分にその何かは唸っていて。
「――あ」
急に黙りこくっていた深澤が勢いよく顔をあげる。
「あの時も、耳鳴りがひどかった」
耳鳴り。そう、耳鳴りだ。
何かの唸り声も、吠えていたような声も、すべてがハウリングするマイク越しに叫んでいるようだったのだ。
それがあまりにもうるさくて、耳をふさぎたいのにふさぐこともままならず。
それ以上に寒くて、痛くて、目が回り続けていて、怖くて、恐ろしくて、誰かに助けてほしくて、でも誰にも来てほしくは無くて。
そう混乱するままに意識を飛ばして、目が覚めた時には今の部屋に横たわっていた。
隣にはセシルが座っていてぼうっと窓の外を眺めていたように思う。
深澤が目を覚ましたと気付くや一方的に名を名乗り、さっさと出て行ったのかと思いきや大男を連れて引き返してきた。
それが、こちらに来て最初の記憶だ。
「……耳鳴りは、いつ起きることが多い」
何かを考え込むセシルが問う。
いつ、と聞かれても今の深澤には時間間隔を補うものが存在しない。
窓の外に見える太陽と定期的に表れるセシルのみを頼りに、日付だって数えているのだ。
「決まった時間はない、と思うけど。
でもセシルが変な臭いをさせてる時……だと思う」
なら、とセシルは眉を寄せた。何かが腑に落ちたようだ。
「ゴーグか」
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春原明香(プロフ) - 沙耶さん» コメントありがとうございます。オリジナルキャラクターも多い作品とはなりますが、最後まで楽しんでいただけると幸いです。 (5月20日 22時) (
レス) id: cf1a8a04fc (このIDを非表示/違反報告)
沙耶 - 続き待ってます！ (5月20日 17時) (レス) id: 6a6eda54e2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：如月千羽 | 作成日時：2023年5月5日 20時
