15.夜食 ページ15
その日の夜、セシルは食事と数冊の本を手に深澤の部屋を訪ねてきた。
「やったー! こんな早く用意してくれるって思ってなかったわ、ありがと!」
「……見るからに娯楽もないから」
食事もそっちのけで本にとびかかる深澤にもはや呆れることもなく、セシルは淡々と机に食事を並べていく。
この世界の食事は洋食よりでそれなりに親しむことができた。
定期的に聞いたことのない食材から錬成される、出会ったことのない風味にかち合うこともあるが、それだって好き嫌いの程度はあれど美味しく調理されている。
――今日はシチューっぽいやつだ。肉は確かカンコ鳥とかいう、鶏よりも鴨に近いやつ。
料理をしているのが誰なのかは定かではない。けれど持ってくるのは常にセシルだった。
最初の頃こそ深澤の分だけが用意されていた。
のだが、元来が寂しがりでありなんでも一人で放置されてしまう事を苦手とする深澤がごねにごねた結果、今ではセシルも律儀に己の分も持ってきている。
ふんふんと鼻を鳴らす深澤に、ふと手を止めたセシルが顔をあげる。というか、と切り出す声は気が抜けていた。
「アンタ、それ読めんの」
「んー、俺もそれ、頼んだ後で思ったけど……
まあ読めないなら読めないで、セシルが教えてくれるでしょ?」
「なんだそれ」
鼻先でかすかに笑うセシルの声を背後に、深澤は一番上に積まれた本を掲げる。
「えーと……か、『神』……『と、9つ、の』……『い』?」
「『神皇と九つの呪い』」
どうやら子どもレベルには読める、らしい。
互いに顔を見合わせる。言わずとも二人の感想は一致していた。
――すっげえ微妙〜〜。
いっそ全く読めないか、すらすら読めるのならばそこで話が終わっただろうに。
「……ま、まあ……?
多少学べば読み書きがすぐにできる、し、読み仮名があれば読めはするってことでひとつ……」
「誰が教えて誰がルビを振るんだ、それ」
「……、……えっへえ」
元の世界でも度々見せていた可愛い子ぶった傾げ首に、眼前の青年は額に手を当てるのだった。
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春原明香(プロフ) - 沙耶さん» コメントありがとうございます。オリジナルキャラクターも多い作品とはなりますが、最後まで楽しんでいただけると幸いです。 (5月20日 22時) (レス) id: cf1a8a04fc (このIDを非表示/違反報告)
沙耶 - 続き待ってます! (5月20日 17時) (レス) id: 6a6eda54e2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:如月千羽 | 作成日時:2023年5月5日 20時