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硬直する男たち。鼻をひくつかせ暢気にきょろきょろしているウサギモドキ。
阿部の自宅ベランダは奇妙な時間が流れていた。
「……え、幻覚じゃないよな？ 俺にしか見えてないってわけじゃないよな？」
最初に口火を切ったのは渡辺だった。
あまりにも誰も反応しないことに不安を覚えたのだろう、その声は変に裏返っている。
その動揺具合に阿部も漸う、あの存在が幻でも何でもないのだと理解した。
となると急に別の問題が浮上する。何であれウサギモドキの位置が悪いのだ。
ベランダの手すりに器用に後ろ足だけで立っているが、下に滑り落ちようなものならその先は八階の高さを経た石畳。
何をどう贔屓目に見ても猫ではないこの生物はあまり考えたくもない末路を迎えることだろう。
ちらり、佐久間を見やる。同じことを考えていたのか覚悟を決めたような顔をした佐久間もぐっと頷き、腰をかがめながらじりじりと踏み出した。
「お、おいでー……」
「きゅう？」
両手を広げ差し出す佐久間を見詰め首を傾げるウサギモドキ。
「何やってんだコイツ」と言いたげな顔つきに、別の意味で本当にウサギなのだろうかと不安が募る。
怖くないよー大丈夫だよーと必死にアピールする佐久間にウサギモドキはひょんっと飛び乗る。
まさか向こうから飛び込んでくるとは思っていなかったのか一瞬たたらを踏んだものの、佐久間はさすがの体幹で踏みとどまった。
「ふ、不思議生物ゲットだぜー!?」
何かが彼の中で連想されたのだろう、ポンっと跳ねるように飛び出た言葉は完全にスルーされていた。
佐久間の腕に収まった生物は先よりも鼻を激しくひくつかせ、八人それぞれの顔を観察しているようだ。
――ジャッカロープ、っていうんだっけこういうの。
にしたって奇妙なカラーリングであることは否めない。
それに、飛びかけていたが鍵だって不可解極まりないことも変わっていない。
分からない事ばかりが増えていく現状に先程から首をひねる仕草が止まらない。
こういった不思議なことを考えるのは阿部とて嫌いではないし、浪漫の類はむしろ好きだ。
けれども深澤のことも、鍵のことも、ウサギモドキのことも、あまりにも現実味が薄すぎるせいか受け止める段階にまで達していない。
と、その時だった。大人しかったはずのウサギモドキが突如として佐久間の腕から飛び出したのだ。
「きゅう！」
「うわっ!? ちょっ、なに、」
驚く阿部の手からこぼれ落ちた鍵をウサギモドキが咥える。
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春原明香(プロフ) - 沙耶さん» コメントありがとうございます。オリジナルキャラクターも多い作品とはなりますが、最後まで楽しんでいただけると幸いです。 (5月20日 22時) (
レス) id: cf1a8a04fc (このIDを非表示/違反報告)
沙耶 - 続き待ってます！ (5月20日 17時) (レス) id: 6a6eda54e2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：如月千羽 | 作成日時：2023年5月5日 20時
