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「あにょはせよー、かむさはむにだー！」
なんか懐かしい匂いがするなぁなんて思いながらあたまをさげる。
頭を下げて見えたのは男物の靴。同性のファンも増えてきて、同性から見てもかっこいい、って思ってもらえるのは凄く嬉しい。
激しいダンスとか、ボーカルラインの高低幅のある綺麗な歌声とか、ラップラインの切れ味するどい歌詞とか、そういうのも全て含めて認めてもらえてるってこと、だよね？
.
「A…」
小さな、ぎりぎり聞き取れるくらいの声で名前を呼ばれて、その声の懐かしさに慌てて頭をあげる。
「兄ちゃん」
目の前には忘れもしない、大切な家族の顔。もう会えないって、会っちゃダメだって思ってたのに。
目の奥がぐわぁっと熱くなって、でも必死に堪える。チウンヌナに怒られるぞ。耐えろ僕。
兄ちゃんも安心したような、泣きそうな変な顔をしてるもんだからせっかくひっこみかけてた涙はまた上がってきてしまっていて、でも頑張って笑う。
「来てくれたんだ」
「うん」
「僕のこと怒ってない？」
「うん」
兄ちゃんは何回も頷いて、すん、と鼻をすすった。泣いてるじゃんか兄ちゃん。いつも先に泣くのは僕の方だったのに。
必死に涙をこぼさないように下を向くと頭に乗せられた手は暖かくて、その手をぎゅっとにぎりしめる。
反対の手で握り返してくれた、その力強さに安心する。
「かっこよくなったな、A。……日本で待ってるから」
やっと笑った兄ちゃんは僕の所から離れて、もう振り返ってはくれなくて。ただこの手の温もりは忘れちゃいけないものだから、次に来てくれた子に微笑みかけながら、テーブルの下でぐっと拳をにぎりしめた。
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