オレとオマエ、睨み合い中。【青】 (ページ10)

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さすらいの旅ページ10

私の父親は銀行員だったため、転勤が多かった。

父の人事異動に引きずり回され、小学校から中学校まで計四回も転校している。

しかし、これほど転校を経験していれば、どんな自己紹介をすれば"イケているやつ"という評判を得られるのか分かってくる。

男子で言えば、"明るい"だとか、"かけっこが速い"だとか。

女子で言えば、"服装がオシャレ"だとか、"他とは違う文房具"だとか。

自己紹介なんて、失敗して下手したら「こいついじめていいヤツじゃん？」なんて思われたら大変である。

私は特にオシャレな服を持っていなければ、匂い付き消しゴムだとかしゃかしゃかなる鉛筆なんかは持っていない。

でも、そこまで底辺に落ちることはなかった。

それはなぜか？

なぜなら、勉強ができたからだ。

"賢さ"は武器。

しかし、使い方は難しい。

宿題を唯々諾々と引き受けたりするのはよくない。「ただの都合のいいヤツ」になってしまうからだ。

つまり、成績の良さを鼻にかけず、あくまで控えめに、だが威厳も残し、たまには宿題を教える…という絶妙なさじ加減が要求される。

さらに、転校した先の授業がどの程度進んでいるのか分からないため、常に準備が欠かせなかった。

おかげで私はいつも前のめりに勉強しなければいけず、二学期のうちに三学期分の予習をさせておく勢いだった。

…我ながら涙ぐましい努力だ。

このように、転校というサバイバルは子供から子供らしさを奪っていく。

中一の二学期初日は、未だによく覚えている。

市立雪森中学校。

残暑厳しい九月、やたらとセミがうるさくて。

『＿＿＿＿から来ました、渡会Aです。父の転勤でこちらに越してきました。』

一年四組のクラス朝礼で紹介された私は、適正な音量でごくシンプルに、簡潔に自己紹介をした。

『よろしくお願いします』

と、すぐに視線をやや下に戻した。軽く会釈をした時、

「てーこんうせいっ！」

大きな声で呼ばれた。

担任教師ではなく、生徒の誰かだ。

え、と思って顔を上げた刹那、鼻に衝撃が訪れた。

『う゛っ』

大きな球形が、ボヨンと目の前に落ちた。

スイカ。

の、デザインのビーチボール。

自分の顔に衝突したのがこのビーチボールなのは理解できたが、なぜそんなものがぶつかってきたのは全く分からなかった。

「きゃっ」

ぼんやりしていると、前の方に座っていた女子が小さく叫んだ。