オレとオマエ、睨み合い中。【青】 (ページ8)

今日:2 hit、昨日:3 hit、合計:34,400 hit

. ページ8

まだだめ？

何回奪おうとしても、軽やかに私の手から消える鍵。

『なんで』

「お前は大事なことを思い出してないから」

私の片頬が歪んだ。彼の言っていることが全くもって理解出来ないからだ。

阿部ちゃんに助けを求めようとすると、チャラ男と楽しそうにもんじゃを作っている。阿部ちゃん…

『あのですね、三宅(みやけ)さん。私は早く自分の部屋で休みたいんです。

それはなぜか。とても疲れているからです。

なぜ疲れているのか。今日引っ越してきたばかりで、午前も荷造りをしていてドタバタしていたからです。』

「ははは、ドタバタだって」

『笑い事じゃありません。

いいですか、いくら私があの物件の店子(たなこ)であり、あなたがあの大家さんの孫だとしてもここまで連れ回される権利はないはずです。』

よし、言ってやったぞ。

焦げるチーズの匂いに包まれながら、私はちょっとした達成感に包まれていた。

「はぁ……あのな、まず俺は三宅じゃねぇ」

彼は胸ポケットから煙草を取り出そうとしていた動きを止め、私の方をじっと見据えた。

私は一瞬戸惑ったが、契約書の書面を思い出しつつ聞き返す。

『三宅徳子(とくこ)さんのお孫さん、ですよね？

三宅徳子さんは高齢のためしばらく前に施設に移られたから、貴方があの喫茶店と、大家の仕事を代行している…ここに来る最中、阿部ちゃんがそうやって』

「うん。それはそうなんだけど、俺は三宅じゃない」

いつのまにか届いていた生ビールのジョッキを手にして言う。

ちなみに私は烏龍茶。下戸というわけではないけれど、見知らぬ人の前でのお酒はあまり気が進まないのだ。

『……あぁ、つまり三宅徳子さんは母方のおばあさんということですね？それなら、貴方のお名前を教えていただきたいんですが』

年下でも、親しくなければあくまで丁寧語。

店員はジョッキの取っ手を握ったままで「それな」とため息をつく。

「お前、まだ気がつかないのか」

『はい？何がですか？』

「お前、今の苗字なんつったっけ」

『柳瀬ですけど』

「今はな。けど昔はちがう」

『………は？』

「渡会(わたらい)だろ。渡会A」

言われて、私は軽く眉を寄せた。

彼の言うことは間違いではない。両親が離婚した際、母方の姓になったからだ。中学までは、確かに渡会だった。

待てよ？ということは…