おはよう崩壊、またきて世界 ／ knzk ページ10
女主
──
上にこなくなったラインのトーク。深夜だったり早朝だったり、かと思えばおやつの時間だったり変な時間に来ない通知。毎日のようにしてたのに、もう開くことすらないゲームのアプリ。
自分ばかりすぐに返事しちゃうのがなんだか恥ずかしくて悔しくって、あなたからの通知が画面の上にきてもちょっとだけ見て見ぬふりする時間をつくってたのに。来なくなったら三分も待ってられずに画面をつけては消してを繰り返すなんて、そんな、今更。
何かの間違いでもいいから、誤送信して急にメッセージが届いて。そしたら会話が続いちゃって、楽しくなって、もしかしたら、あのときのアレは何かの間違いで、やっぱり別れるのはナシにしようって。そしたら、わたしもへんに意地張ってごめんねって謝って。そしたらおれも悪かったねって言ってくれて、お互いにごめんなさいして仲直りして、ぎこちなく手も繋いで、ハグして、また一緒にいようよって言って。それから、それから、それから。
「…Aちゃん、前髪自分で切ったの？」
「そうだよ、変？ちょこっと切りすぎたの」
「ふふ、いやあ、似合ってるよ。切るの下手くそだけど。っぷふふ」
「笑ってるじゃん」
「え？いやいや。ふふふ、かわいいですよ。へんてこだけど。ふふ」
「…もう、うるさいなー！わたしよりもっとへんてこりんな髪型のくにちゃんに言われたくないし！」
「あはは、そしたらおそろいじゃんね。ぼくたち」
くにちゃんの丸っこい手がこっちに伸びて、切りたての前髪に触れる。整えるみたいに手櫛で数回撫でられて、伏せていた目を前に向けたら満足げに笑うくにちゃんが奥に見えた。
「くにちゃん、」
「なあに、Aちゃん」
名前をそっと呼べば、かわらない、わたしのことを愛おしそうに目を細めてわらってる顔。目の奥がじんと熱い。ああ、すきだ。この人のことがとっても、すきだ。
「いっしょにいてよ」
ぽつりと声が漏れる。目の前にいたくにちゃんが突然砂嵐のテレビみたいに見えなくなって、現実のわたしの声で起こされた。真っ暗な部屋。自分の家の天井だけが視界に広がっている。握りしめていたらしいスマホは枕の横に落ちていた。指先で画面に触れると、見慣れたロック画面。その上にはなんの通知も表示されていない。薄く開いた唇から深く静かに息が漏れた。せっかく表示された画面は誰にも触られないまま、再び真っ暗に戻る。切りすぎた前髪と情けない顔した自分と目が合った。
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作者名：ねむる | 作成日時：2022年3月15日 23時
