おやすみなさいお月様 (ページ4)

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音が静まってドアを開ける。クニが「大丈夫？」と声をかけると、ひとつも吐瀉物が便器に収まっていない場所で「大丈夫！」とイトーちゃんが元気に声をあげた。その地獄絵図に俺とクニは絶句する。

「…ごめん、…マジでごめん、クニ」
「ええよ、Aが悪い訳ちゃうからね」
「とりあえず、速攻片して連れて帰るから」

吐いたせいかそれともお陰か、普段以上に顔が真っ白になって、吐瀉物撒き散らしへべれけ男は次は「寒い！寒いよA！」と言い出した。

「はいはいはい、イトーちゃんはこれ着とけ！そんで水飲んで大人しくしてろ！」

とりあえず俺が着てきたアウターを放り投げ、急いでクニと一緒に便所に撒き散らされたそれを拭きあげる。クニは普段のへらへらっと笑う顔すら想像できないほどの真顔だった。そりゃそうだ、俺がクニの立場でも絶対にそうなる。

どうにか便所を現状回復(以下)くらいに片付け終えると、クニはそろそろバイトらしく支度を始めていた。

「マジでごめんな、クニ。バイト頑張って」
「お～ええよ、Aもありがとね」

「お邪魔しました、ちゃんとイトーちゃんは連れて帰るから」
「伊藤さんは放り出しててもいいんじゃない？」
「………さすがに俺の良心がなぁ、」
「ふは、じゃあ金ぐらいは伊藤ちゃんに出してもらってよ。俺らの手間賃としてさ」
「はは、そうだな。そうするよ」

そう言ってクニは駐輪場へと暗闇に消えていく。俺に残された課題はただひとつ、酔い潰れたイトーちゃんを連れて帰ることのみとなった。

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